“またね。”

「菜摘」

玄関に着いた時、菜摘を呼び止める声がした。

視界に入り込んできたのは、意外にも駿くんだった。

「駿くん、どしたの?サボり?」

まだ3時間目だし、授業はとっくに始まってる。

駿くんが授業をサボるなんて意外だ。

「ちげぇよ。今菜摘が殴った先生の授業だから自習」

菜摘と駿くんの国語の担当は同じ先生。

その先生は今、職員室で事情聴取もどきを受けている。

「あー…なるほど。受験なのに迷惑かけて申し訳ないです」

冗談混じりに軽く頭を下げると、駿くんは『ははっ』と笑った。

「だるい授業なくなって助かったわ。てかちょっと時間ある?」

「さっき姉ちゃん呼んだばっかだから、15分くらいなら」

「ちょっと話さない?」

駿くんからの意外な誘いに首をかしげると、駿くんは『少しだけ』と言って、柔らかく微笑んだ。

もしかして、菜摘のこと待ってたのかな。

「うん、いいよ」

時間がないから、玄関にあるベンチに腰掛ける。

授業中だし誰も通らないだろうから。

一呼吸おくと、駿くんはすぐに切り出した。