“またね。”

「殺す」



そう呟くと、先生に掴み掛かり、顔を思いきり殴った。

蹴ろうと右足を振り上げたところで他の先生方に押さえられる。

周りにいた友達も止めようとする。

でも誰に何を言われたって止まらなかった。





「菜摘!」





ふいに聞こえたのは

菜摘を呼ぶ大好きな声。

大好きな人の声─





「大ちゃん…」



声の主は、愛しい人。

瞬時に落ち着いた菜摘に、みんな驚いていた。



散々暴れたのに

誰に何を言われたって止まらなかったのに

何も考えられないくらい、我を失っていたのに

この声は、真っ直ぐ菜摘の中へ入り込んできた。

たった1人の声で、落ち着きを取り戻せちゃったんだ。



「お前…暴れすぎ。おいで」



人混みを堂々と歩き、菜摘の腕を引く。

力強いけれど、やっぱりその手は優しい。



大ちゃんは、先生方に捕まらないよう全速力で駆け出した。

手を引かれるままについていく。



途中、教室を出た時

呆然と立ち尽くす亮介と、一瞬目が合った。

とても、悲しそうな目をしていた。