本心を押し殺しながら、焼きそばと大量の唐揚げを2人で完食した。

次は植木くんのバンド。

大ちゃんと先生にお礼を言い、みんながいる体育館へと足を運ぶ。

理緒たち3人が最前列を陣取っていたから、人混みをくぐり抜けて合流した。



始まる直前、突然誰かに腕を掴まれた。

振り向くと、亮介の姿。

「ちょっときて」

そのまま廊下へ連れ出されて2人で座る。

明らかにムスッとした表情であぐらをかき、小さくため息を吐いた。

「なんで電話出ねぇの?」

「電話?」

携帯を確認すると、亮介からの着信がたくさんある。

「あー…ごめん。気付かなかった…」

亮介はクラスパフォーマンスに出るため、朝からずっと練習していたから、まさか電話がくるとは思ってなかった。

…そっちの方が都合がいいからだ。

「…まあいいけど。…浴衣似合ってるよ」

まだ少し怒ってるけど、右手がふさがれた。

「ほんとに?ありがと」

付き合い始めてから1ヶ月が過ぎて、もうふたりの形が徐々にできあがりつつある。

菜摘は完全に追われる立場だ。

それで亮介がふてくされて、菜摘が謝って、結局は亮介が折れる。

菜摘はたぶん、フリでも追えないから

ある意味では居心地がよかった。

好きなフリをしやすかった。

菜摘はどこまで最低なんだろう。



「練習は?」

「1時間休憩。だからなっちと学祭回ろうと思ったのに」

「そっか。ごめんね」



─わかってたんだ。

どうして亮介が怒るのか。

亮介はわかってたんだよね。

本当はわかっていたのに、わからないフリをした。

そんな態度が亮介を傷つけていたこと。

菜摘は、亮介に甘えすぎてたね。