「…じゃあマフラー返すよ。いっつもつけてるんでしょ?なかったら怪しまれるかもよ」

暖かくて
暖かくて

本当はずっとつけていたい。

でもそんなの虚しいじゃない。

マフラーを外す手を、大ちゃんが掴む。

「いいよ、寒いし。ね?」

優しくしないでよ。

泣いちゃうじゃん…。

「…じゃあさ、今度返すね」

どうして今日、彼女と会うの。

どうして彼女と会うのに、菜摘と会う日を今日にしたの。

「うん、素直でよろしい。でもあげるよそれ」

ねぇ、そんなに優しく微笑まないで。

優しい手で、髪に触れないで。

「…ありがとう」

涙を堪えるのって、けっこう大変なんだから─



「じゃあ…またね?」

大ちゃんの台詞を使ってしまった。

また会えるよね…?

「うん。わざわざきてくれたのにごめんね。気を付けてね」

立ち上がって菜摘の頭を軽く撫でる。

手を振り、背を向けて歩いて行った。