「それからあとはあまり記憶がないんですが、気付いたら病院にいて、集中治療室の前の椅子に座ってました。周りには、小夜さんのご両親やボクの親がいました。小夜さんのお母さんは泣いてて、みんな暗い顔をしていました。」


「うん。」





 そうなんだ、お母さん泣いてたんだ…?



「ボク、その空気に耐えられなくなって抜け出したんですっ。怖くて怖くて仕方なかったんですっ。」





 また、震え出した彩人くん。


 今度は抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫。」


「はっ、い…それから小夜さんは無事一命をとりとめたんですが…」


「記憶がなかったんでしょ?」


「はい、ボクとの記憶は全て。家族との記憶は少し残っていました。だから、幼いころの記憶はそんなになかったですよね?」


「うん、彩人くんとの思い出が多かったから。」


「ですよね…それでボク幼いながら考えて決めたんです。もう、ボクは小夜さんとは関わらないと。」





 きっと勇気がいる決断に違いない。


「うん。」


「でも、ボクは諦めきれなかったんです。物心つく頃から小夜さんのことが好きだったから。小夜ちゃんのお母さんに約束したのにっ、って思いながら毎日苦しみました。」





 なんて優しいんだろう…



「ありがとう。そんなに想ってくれて。」


「いいえ、これは間違ってたんです。」



 彩人くんは真剣な顔をして私の目を迷わずまっすぐ見た。