その後、呆然と立ち尽くす私を余所に、市ノ瀬くんは何事もなかったように歩きだしてしまった。
そんな彼の背中を、私は何を考えるわけでもなく見送った。
どれほどその場にいたのかはわからない。
しかし、「昨日の試合観たか?」と言う男子たちの話声に、私は弾かれたようにまわりを見渡す。
ずいぶんと立ち尽くしていたようで、気がつけば市ノ瀬くんの姿は何処にもなかった。
はぁ…、と小さくため息を一つすると、タイミングを見計らったように予鈴のチャイムが鳴った。
「ち、遅刻する!」
私は脱兎の如く、走ってその場を後にした。
そうして私は今、教室で友人2人と机を真ん中に1つ囲うように座っている。
「千尋…、あんた、おかしいわ」
「唐突に何ですか、美歌さん」
私の鼻頭を人差し指でぐいぐいと押しつけながら、私の友人である新島美歌は嫌悪の眼差しで私を見やった。
あと、鼻が潰れるので、あまりぐいぐい押し潰さないでください。
「今はあなたの低い鼻について議論している暇はないわよ」
「じゃあ、退けてください。てか、低いは余計だよ」
「私、触りたい」
「「……蛍(ちゃん)」」
「わ、わ、わ」と焦るように涙目で私と美歌を見つめる私の友人朝比奈蛍は、私たちが睨み付けていると分かると、しゅんしゅんと肩をすぼませながら黙りこくってしまった。
少々やりすぎたか、と思うが、今はそれどころではない。
「美歌、私の話聞いてた?」
「えぇ、ばっちり」
「どうしてその結論に至ったのか、聞かせてくれる?」
「理由…ねぇ」
美歌はガタッと椅子の背もたれから背中を離すと、机に肘をつき頬杖をついた。
まるで、そんなの聞かなくてもわかるでしょ?とでも言うかのように…。
「千尋、あなたの今日の行動を全て、洗いざらい白状なさい」
「唐突に何を……」
「白状しろ!」
