オオカミ少年。


「大丈夫だよ、バカは風邪引かねえから。」

また嘘ついた。

中田はあたしよりも遥かに賢いのに。自分のことバカだなんて。


「……じゃあ、手握ってて?」

無意識に出た言葉はそれで、自分で意味を理解してすぐに手で口を覆った。

…これはきっと風邪のせい。


「や、やっぱいい!」

普段なら絶対にこんなこと言わない。

言わないっていうか、言えるわけがない。素直じゃないことはあたしが一番よく知ってる。

…もう、恥ずかしくて死にそう。

自分で自分の熱を上げてしまったみたい。


「…それって、誘ってんの?」

ポカーンとした中田は、あたしを見つめてそう言った。

「んなわけないでしょ!」

ほんと、バカだ。彼女が熱だしてるっていうのに何考えてんだか。


付き合って1ヶ月半。

甘ったるい雰囲気になったことは一度もない。キスは何度もした。でもそれ以上のことはしてこない。

したい、と言われたことだってない。