主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

明け方近くまで周たちから主さまの子供時代の話を聞いていたために、主さまが戻って来たことに全く気付いていなかった。


「息吹、戻って来たぞ。…息吹、起きろ」


「……ん…?あ、主さまっ!やだ、寝ちゃってた…。お帰りなさい」


「よく寝ていたな。晴明はちゃんとお前を見張っていたか?」


床から這い出た息吹は障子を開けて陽が上って来た空を見上げた。

すると、かあと鳴く声がして視線を落とすと、庭には八咫烏が細い脚を畳んで座っていた。


「八咫烏さんと父様、おはようございます」


『ああおはよう。昨晩は楽しい話をしていたねえ。十六夜の弱点がどうだとかこうだとか』


ぎくっとなった主さまが息吹を軽く睨むと、息吹は舌をぺろっと出して草履を履いて庭に出た。


「…どういうことだ、息吹」


「弱点っていうか、主さまが小さかった頃のお話を聞いてただけだよ。主さまったら小さい時から全然性格とか変わってないんだね」


「持って生まれたものが変わるものか。晴明…まさかお前も聞いていたんじゃないだろうな」


『小耳に挟む程度には。角の部分がどうだとかこうだとか』


ばっちり聞かれていたらしく、憮然とした表情になった主さまが庭に降りて八咫烏の嘴を思いきり掴むと、息吹の瞳が大きく見開かれた。

どうしたのかと思って嘴から手を離したが…息吹の視線はどういうことか、頭の上の方を見ている気がして、何かついているのかと思って頭に触れてみると――


「耳…!?」


「ぬ、主さま!尻尾が!耳が!父様、ありがとう!」


『いやなに、私なりの嫌がらせだよ。今日のところはその姿のまま辱めを受けて悔しがるがいい』


…なんとも性格の悪い。

だが息吹は背を伸ばして真っ白な耳に触ろうとしたり、そうしたかと思えば今度は背中側に回り込んでふかふかの尻尾を撫でてはうっとりして主さまを動揺させた。


息吹に触れられるのはとても嬉しいが…尻尾に触れられると、どうにも身体がむずむずして仕方が無くなるのだ。


「…助平が」


「主さまほどじゃないもん。今日ずっと耳と尻尾が生えてるままなんでしょ?今の主さますっごく可愛い。お義父様とお義母様に見せに行こうよ!」


「じょ、冗談じゃない!俺は今日1日部屋に籠もるからな!晴明の奴…帰ったら覚えていろよ…!」


この日息吹は1日中主さまの尻尾と耳を触りまくり、主さまは嫌がりながらも尻尾はぴょこぴょこ動きまくって感情を現わしていた。