主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

主さまも息吹も、以前高千穂を訪れた時に夢の中で鬼八と華月との確執を見ていた。

真実を知ったことで絡み合う3人の複雑な恋模様を理解して共感し、天に昇った鬼八と鵜目姫の魂を見るかのように空を見上げて、暑い日差しを浴びた。


「華月さんは安らかに眠ってると思う?」


「さあ。俺たちが会ったのは鬼八と鵜目姫のみだ。華月は鵜目姫に恋焦がれながら死んだだろう。三毛入野命と夫婦になった鵜目姫を追うこともなくこの村に戻って来たそうだ」


「そうなんだ…。ねえ主さま、私ってどの位生きると思う?主さま位に長生きできる?」


神だった鵜目姫の子孫である息吹は、神の祖とも言える木花咲耶姫の転生した姿だ。

力が開眼したことによって体内の時が止まった息吹は、これから少しずつ老いていくのか…それともこのまま若々しい姿なのか…主さまには判断がつかない。

だが息吹を看取る勇気はないので、息吹よりも早く死にたいとは思っていた。


「鬼族の寿命は長い。親父と母が何年生きているのか、俺は知らないんだ。それにお前は神を宿した身。俺以上に長く生きるかもしれない」


祠から出て綺麗に同じ大きさの小石を敷き詰められた道を歩いていると、息吹が立ち止まって真面目な顔をしていた。

主さまも立ち止まって何事かと息吹を見つめていたが…

いきなり息吹がその場に中腰になって座り込んだので、慌てて駆け寄って肩を揺すった。


「おい、どうした?」


「駄目。それは駄目なの」


「…何が駄目なんだ?」


息吹が俯くと髪紐が揺れ、主さまも中腰になってその髪紐を軽く引っ張り、気を引いた。



「どうしたんだ。何故悲しそうな顔をしている?」


「私…主さまと一緒に死にたいの。だから主さまよりも早く死んだり、長く生きたりはいや。絶対一緒に死ぬの。木花咲耶姫様にお願いしたら叶えて下さると思う?」


「…息吹…」


「主さまを看取るのは嫌。せっかく長寿を与えて下さったけど、主さまと同じ時間を生きれたら私はそれでいいの。主さまは?私の考え…おかしいと思う?」


「…いや、思わない。俺もお前を看取る位なら自害する。…一緒に願おう。…お前には本当に敵わない」



本当は、視界が滲んで大変なことになりそうだった。

主さまは息吹の手を引いて立ち上がらせると、空を見上げて大きく深呼吸する。

隣りの息吹はにこにこしながら甘えるように主さまの腕を抱いて、村のあちこちを散策した。