洞窟の最奥にある華月の祠は毎日綺麗に掃除されている埃っぽくもなく清潔に保たれていた。
祭壇があり、そして大きな石の棺が横たわり、華月はその中で眠りについた。
手足を斬られてもけして死ぬものかと恨みを募らせた鬼八が悪鬼となり、そんな親友を…鬼八を封じるために華月が何がなんでも血を繋がなくてはならなかったこと――
子孫を巻き込んでまでも鬼八を封じなくてはならなかったこと…主さまの家には、華月本人が書いたと言われる古文書が遺されている。
主さまはその本に全く興味を覚えなかったために読んではいないし、鬼八を封じ続けることは当然のことだと捉えていた。
「鬼八さんとは親友だったんだよね。でも鵜目姫が2人の仲を…」
「…華月は鬼八を殺してまでも鵜目姫を手に入れたかった。心の底では鬼八を恨み、羨み、屈折しながら親しげに見せていただけだ。…だが俺にはその気持ちが少しわかる」
息吹が顔を上げると、主さまは祠の前に咲いていた橙色の花を摘んで祭壇に飾ろうとしていた息吹の手から一輪花を貰って棺の上に置き、始祖に共感する。
「俺もお前が道長や雪男の間で心が揺れていた時、2人を殺してやろうとずっと思っていた。そうすればお前が手に入ると思い込んでいた。…俺も華月と何ら変わらない」
「主さま…そんなこと思ってたの?やっぱり主さまと華月さんは同じ血が通ってるんだね」
「実際問題華月は鬼八を封じた後鵜目姫が手に入ると思っていただろう。だが鵜目姫は華月を恨み、三毛入野命と夫婦になった。…お前はその子孫だ」
なんという運命。
愛した男を…鬼八を封じた華月を恨みながら、愛してもいない男と夫婦になって恨みを募らせた鵜目姫。
美しかった彼女が憎悪に顔を歪ませて華月を拒絶した時、一体華月はどんな思いだったのだろうか。
もし息吹に同じことをされたならば、自分は一体どうしていただろうか。
「私はその子孫かもしれないけど、でも華月さんのこと恨んでないよ。むしろ華月さんだって血を絶やして鬼八さんを封じる人が居なくならないように好きでもない人と夫婦にならなきゃいけなかったんでしょ?でもそのおかげで私は主さまに出会えたから」
息吹は主さまの腕を抱いて棺の前で背筋を伸ばした。
「華月さん、主さまは…十六夜さんは私の大切な旦那様です。出会わせてくれてありがとうございます」
主さまの瞳が揺れる。
何もかも受け止めてくれる息吹を一生離すまいと華月に誓った。
祭壇があり、そして大きな石の棺が横たわり、華月はその中で眠りについた。
手足を斬られてもけして死ぬものかと恨みを募らせた鬼八が悪鬼となり、そんな親友を…鬼八を封じるために華月が何がなんでも血を繋がなくてはならなかったこと――
子孫を巻き込んでまでも鬼八を封じなくてはならなかったこと…主さまの家には、華月本人が書いたと言われる古文書が遺されている。
主さまはその本に全く興味を覚えなかったために読んではいないし、鬼八を封じ続けることは当然のことだと捉えていた。
「鬼八さんとは親友だったんだよね。でも鵜目姫が2人の仲を…」
「…華月は鬼八を殺してまでも鵜目姫を手に入れたかった。心の底では鬼八を恨み、羨み、屈折しながら親しげに見せていただけだ。…だが俺にはその気持ちが少しわかる」
息吹が顔を上げると、主さまは祠の前に咲いていた橙色の花を摘んで祭壇に飾ろうとしていた息吹の手から一輪花を貰って棺の上に置き、始祖に共感する。
「俺もお前が道長や雪男の間で心が揺れていた時、2人を殺してやろうとずっと思っていた。そうすればお前が手に入ると思い込んでいた。…俺も華月と何ら変わらない」
「主さま…そんなこと思ってたの?やっぱり主さまと華月さんは同じ血が通ってるんだね」
「実際問題華月は鬼八を封じた後鵜目姫が手に入ると思っていただろう。だが鵜目姫は華月を恨み、三毛入野命と夫婦になった。…お前はその子孫だ」
なんという運命。
愛した男を…鬼八を封じた華月を恨みながら、愛してもいない男と夫婦になって恨みを募らせた鵜目姫。
美しかった彼女が憎悪に顔を歪ませて華月を拒絶した時、一体華月はどんな思いだったのだろうか。
もし息吹に同じことをされたならば、自分は一体どうしていただろうか。
「私はその子孫かもしれないけど、でも華月さんのこと恨んでないよ。むしろ華月さんだって血を絶やして鬼八さんを封じる人が居なくならないように好きでもない人と夫婦にならなきゃいけなかったんでしょ?でもそのおかげで私は主さまに出会えたから」
息吹は主さまの腕を抱いて棺の前で背筋を伸ばした。
「華月さん、主さまは…十六夜さんは私の大切な旦那様です。出会わせてくれてありがとうございます」
主さまの瞳が揺れる。
何もかも受け止めてくれる息吹を一生離すまいと華月に誓った。

