主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

ようやく息吹と床につけた主さまは、いつもとは違う環境に少しだけ燃えていた。

だが息吹はその気はないらしく、床についたと同時に瞳を閉じて寝ようとしたので、主さまは息吹の腰を強引に抱いて引き寄せると、耳元でこそりと囁く。


「何もさせてもらえないまま寝るつもりか?」


「な、なに言ってるのっ?ここはお家じゃないんだよ、それにお義母様もお義父様も居るんだからそんなこと…」


「俺の屋敷だっていつも山姫や雪男が居るじゃないか。俺の好きなようにさせろ」


俺様全開で帯を外しにかかられた息吹は、主さまの手の甲を思いきりつねって離れさせると、くるりと背中を向けて主さまを拒絶した。

そうされると余計に燃えてしまった主さまは、怒ることもなく今度は息吹を背中から抱きしめて念押しをする。


「寧たちの件はもうこれで終わったな?頼むから怒らないでくれ。そして晴明に言わないでくれ」


「父様?別に言わないけど…。主さまが大助平なのは十分わかったし、それにお義母様たちと仲良くなれそうだからよかった。もう帰る?もうちょっと居られる?」


「少し寝たら、華月の祠へ行く。お前がもう少し居たいのならば滞在してもいい」


「華月さんの祠?うん、一緒に行こうね。主さま寝ようよ、私…眠たいな」


「…嘘をつけ。そうやって俺を拒絶する気か」


浴衣の肩口に指を入れて、先ほど噛み痕をつけた場所を指でなぞった。

背中側に居るので息吹がどんな顔をしているのかわからなかったが、耳は真っ赤になっていた。


「ぬ、主さま、触んないで」


「触らずしてどうやって子を作る気だ。妖と人との間に子はできにくい。どれだけ努力しようともできない場合もある。…努力すべきだと思わないか?」


執拗に迫ってくる主さまから逃れられる術がなく、息吹はまた寝返りを打って主さまと真向かいになると、青白い炎が揺れている主さまの瞳に見入られた。

この炎が大好きで、主さまの気が昂っている時に現れる現象を目の当たりにして仕方ないと言った態で息をついた息吹は、主さまの胸に頬を寄せて小さな声で囁く。


「聞き耳とか立てられてたら…」


「俺を誰だと思っている。そんなもの術で遮断できる」


そう言った直後――なんとなく部屋の空気が張りつめた気がして息吹が顔を上げると、部屋に術をかけて結界を張った主さまは、意地悪気に口角を上げて笑っていた。


「さあ、これでいいな?覚悟しろ」


朝から元気な主さまだった。