百鬼夜行を早めに切り上げた主さまがいそいそ高千穂の実家へ戻ると――
自室で寝ているはずの息吹の姿はなく、綺麗に整えられた寝ていない形跡の床が敷いてあった。
せっかく労をねぎらってもらって一緒に温泉に入っていちゃいちゃしようと思っていたのに期待をあっさり裏切られた主さまは、息吹の気配を辿って位廊下を歩き、周の寝室の前で立ち止まった。
いくら息子の立場とは言え、無断でここに入ればどうなるか…主さまは知っている。
入りたくても入れずに、襖に手をかけようと引っ込めたり伸ばしたりしていると――主さまの肩をぽんと叩いた者が在った。
全く気配を感じなかったので、思わず一気に殺気を膨らませた主さまが天叢雲の鞘を瞬時に抜いて刀身を相手に向けて突き出す。
「危ないじゃないか」
「…気配を殺して俺の背中に立つな」
「そういうつもりはなかったんだが。ちなみに息吹姫なら周と仲良く寝ているはずだ。俺も息吹姫と周に挟まれて寝たかったんだが、拒まれた」
「当然だろうが。とち狂ったか」
主さまの機嫌が一気に悪くなり、廊下にひんやりとした空気が流れた時――襖がすらりと開いた。
そこからこっそりと顔だけ出したのは四つん這い状態の息吹で、目を擦りながら立ち上がると、廊下に出て主さまの帯に手をかけて笑った。
「主さまお帰りなさい。いつもよりちょっと早かったね」
「…ああ。……行くぞ」
「え?どこに?」
有無を言わさず息吹の手を引っ張って歩き出した主さまが向かっているのは玄関の方だ。
途中風呂場へ寄って何枚かの手拭いを調達すると、息吹がどこへ行くのに気付いて無理矢理脚を止めた。
「ぬ、主さまあのね、潭月さんが百鬼夜行から帰って来たら一緒に温泉に入ろうって…」
「誰が一緒に入るものか。面白くもなければそんな約束もしていない」
「で、でも、でもっ、私心の準備ができてないし…」
「準備などしなくてもいい。行くぞ」
――だが息吹も負けていられない。
何せ聞きたいことが山ほどあるので、主さまの強引さに負けない勢いで脚を踏ん張ってまた立ち止まらせると、なるべく怒った表情を作って主さまをぎくっとさせた。
「主さま。私に隠し事してるでしょ」
「はあ?…隠し事などしていない。一体なんの言いがかりだ」
「お嫁さん候補が沢山居たでしょ。お義母様から全部聞いたんだから」
息吹は負けじと主さまに身を乗り出し、話してくれるまで断固動かない姿勢を主さまに見せつけた。
自室で寝ているはずの息吹の姿はなく、綺麗に整えられた寝ていない形跡の床が敷いてあった。
せっかく労をねぎらってもらって一緒に温泉に入っていちゃいちゃしようと思っていたのに期待をあっさり裏切られた主さまは、息吹の気配を辿って位廊下を歩き、周の寝室の前で立ち止まった。
いくら息子の立場とは言え、無断でここに入ればどうなるか…主さまは知っている。
入りたくても入れずに、襖に手をかけようと引っ込めたり伸ばしたりしていると――主さまの肩をぽんと叩いた者が在った。
全く気配を感じなかったので、思わず一気に殺気を膨らませた主さまが天叢雲の鞘を瞬時に抜いて刀身を相手に向けて突き出す。
「危ないじゃないか」
「…気配を殺して俺の背中に立つな」
「そういうつもりはなかったんだが。ちなみに息吹姫なら周と仲良く寝ているはずだ。俺も息吹姫と周に挟まれて寝たかったんだが、拒まれた」
「当然だろうが。とち狂ったか」
主さまの機嫌が一気に悪くなり、廊下にひんやりとした空気が流れた時――襖がすらりと開いた。
そこからこっそりと顔だけ出したのは四つん這い状態の息吹で、目を擦りながら立ち上がると、廊下に出て主さまの帯に手をかけて笑った。
「主さまお帰りなさい。いつもよりちょっと早かったね」
「…ああ。……行くぞ」
「え?どこに?」
有無を言わさず息吹の手を引っ張って歩き出した主さまが向かっているのは玄関の方だ。
途中風呂場へ寄って何枚かの手拭いを調達すると、息吹がどこへ行くのに気付いて無理矢理脚を止めた。
「ぬ、主さまあのね、潭月さんが百鬼夜行から帰って来たら一緒に温泉に入ろうって…」
「誰が一緒に入るものか。面白くもなければそんな約束もしていない」
「で、でも、でもっ、私心の準備ができてないし…」
「準備などしなくてもいい。行くぞ」
――だが息吹も負けていられない。
何せ聞きたいことが山ほどあるので、主さまの強引さに負けない勢いで脚を踏ん張ってまた立ち止まらせると、なるべく怒った表情を作って主さまをぎくっとさせた。
「主さま。私に隠し事してるでしょ」
「はあ?…隠し事などしていない。一体なんの言いがかりだ」
「お嫁さん候補が沢山居たでしょ。お義母様から全部聞いたんだから」
息吹は負けじと主さまに身を乗り出し、話してくれるまで断固動かない姿勢を主さまに見せつけた。

