久々に台所に立った周は、驚くほど綺麗になって塵や埃ひとつない台所に感嘆の息を漏らした。
「わたくしが幽玄町のあの屋敷で暮らしていた頃はそれはもう台所は酷い有様じゃった。わたくしたちは人の食べ物を食す習慣がない故にな」
「私が知ってるお台所はいつも綺麗でしたよ。母様がいつも綺麗にしていましたから」
「母代りとは山姫か。てっきり十六夜に懸想していたのだと勘違いしていたが、晴明の嫁になったと聞いた時は驚いたぞ」
相変わらずの情報通な周に美味しそうな緑茶を差し出されて頭を下げて受け取った息吹は、皆で団子や饅頭をつまみながら互いの状況を打ち明け合う。
「父様は小さな頃からずっと母様を好きだったらしいんです。純愛ですよね、素敵!」
「確かそなたも十六夜に拾われた時から懸想していたのではないのか?」
「そ、そんなことないです!主さまのことを好きだなあって思ったのは…私が幽玄町から逃げ出した後だったし…。ずっと何年間も離れて再会してからだから」
…実は何もかも知ってはいたのだが、息吹の口から直接息子のことをどう思っているのかを聞きたかった周は、満足して背もたれに身体を預けた。
息吹も主さまもまだ知らないが、実は晴明とは文通をやりとりする仲で、頻繁に情報を交換し合っていたのだ。
まさかその晴明の娘が嫁いでくるとは夢にも思っていなかったけれど。
「鬼八さんと華月さんのことがあって…。それから主さまにすごく惹かれて…。主さまは華月さんの血縁であることを疎んでいたみたいだったけど、私はそういうの関係なくて主さまが大好きですから。……す、すみません、変な告白しちゃった…」
「ふふふ、十六夜め…ほんに良い娘を貰った。ちなみに華月様の墓はこの村の祠にある。明日十六夜と参るといい」
「はい。ふわわ…ご、ごめんなさい」
話の途中でつい欠伸が出てしまって口元を押さえたが、短時間でここまでやって来たのだから相当な強行軍だったはずだ。
他人が同じことをしたならば激高して手がつけられなくなるところだったが、息吹を気に入った周は、たおやかな手つきで息吹の手を取って立ち上がらせると、寝室にしている部屋へと誘導した。
「今宵はわたくしと寝ようぞ。…実はわたくしも眠たかったのじゃ」
左目だけぱちんと閉じて茶目っ気たっぷりな表情を見せた周に魅了された息吹は、机に頬杖を突いて面白くなさそうに鼻を鳴らした潭月に頭を下げてお休みなさいを言うと、仲良く手を繋いで寝室へ行った。
「わたくしが幽玄町のあの屋敷で暮らしていた頃はそれはもう台所は酷い有様じゃった。わたくしたちは人の食べ物を食す習慣がない故にな」
「私が知ってるお台所はいつも綺麗でしたよ。母様がいつも綺麗にしていましたから」
「母代りとは山姫か。てっきり十六夜に懸想していたのだと勘違いしていたが、晴明の嫁になったと聞いた時は驚いたぞ」
相変わらずの情報通な周に美味しそうな緑茶を差し出されて頭を下げて受け取った息吹は、皆で団子や饅頭をつまみながら互いの状況を打ち明け合う。
「父様は小さな頃からずっと母様を好きだったらしいんです。純愛ですよね、素敵!」
「確かそなたも十六夜に拾われた時から懸想していたのではないのか?」
「そ、そんなことないです!主さまのことを好きだなあって思ったのは…私が幽玄町から逃げ出した後だったし…。ずっと何年間も離れて再会してからだから」
…実は何もかも知ってはいたのだが、息吹の口から直接息子のことをどう思っているのかを聞きたかった周は、満足して背もたれに身体を預けた。
息吹も主さまもまだ知らないが、実は晴明とは文通をやりとりする仲で、頻繁に情報を交換し合っていたのだ。
まさかその晴明の娘が嫁いでくるとは夢にも思っていなかったけれど。
「鬼八さんと華月さんのことがあって…。それから主さまにすごく惹かれて…。主さまは華月さんの血縁であることを疎んでいたみたいだったけど、私はそういうの関係なくて主さまが大好きですから。……す、すみません、変な告白しちゃった…」
「ふふふ、十六夜め…ほんに良い娘を貰った。ちなみに華月様の墓はこの村の祠にある。明日十六夜と参るといい」
「はい。ふわわ…ご、ごめんなさい」
話の途中でつい欠伸が出てしまって口元を押さえたが、短時間でここまでやって来たのだから相当な強行軍だったはずだ。
他人が同じことをしたならば激高して手がつけられなくなるところだったが、息吹を気に入った周は、たおやかな手つきで息吹の手を取って立ち上がらせると、寝室にしている部屋へと誘導した。
「今宵はわたくしと寝ようぞ。…実はわたくしも眠たかったのじゃ」
左目だけぱちんと閉じて茶目っ気たっぷりな表情を見せた周に魅了された息吹は、机に頬杖を突いて面白くなさそうに鼻を鳴らした潭月に頭を下げてお休みなさいを言うと、仲良く手を繋いで寝室へ行った。

