「息吹…久しぶり。元気だったか?」
「あ、雪ちゃん。うん、元気だよ。急に飛び出して行ってごめんね」
「や、それはいいんだ。こうして戻って来てくれたからさ」
番傘を差した雪男がはにかんで息吹の手を握った。
雪の身体の雪男は人の体温だけでも火傷するので息吹が慌てて手を離そうとするが、雪男はしっかり手を握って離さない。
「雪ちゃん火傷するから…」
「会いたかった。不安だっただろ?会いに行けなくてごめんな」
「……雪ちゃん…」
真っ直ぐな青い瞳で見つめられてついどきっとした息吹は、慌てて俯くと、笑みを噛み殺している晴明の袖を握った。
「ち、父様…」
「さあそこまでにしてもらおうか。私の愛娘に求愛しようというのならば手順を踏みなさい。まずはそうだな、恋文からかな」
「ちぇっ、そろそろ子離れしろよな晴明」
「さあそれはいつのことやら。さあ行こうか」
一度庭の前で立ちどまった息吹は、大切に育てた花が一輪も枯れずに見事に咲き誇っているのを嬉しく思いながら蔵に向かう。
あの蔵にはほとんど入ったことがないが、あんな薄暗い場所に閉じこめて一体どうなっているのか――
「こんな所に居るの?大丈夫なの?」
「とある事情があって母屋では匿えぬ。それも椿姫から直接聞くといいよ」
「はい。じゃあお願いします」
晴明が主さまから借り受けた鍵で錠を開けると、姿を消して息吹の隣に居る主さまをちらっと見た。
もちろん息吹には見えていないのだが、それでも傍に居たいと思うほど愛しているのにこの不器用さが邪魔をして素直になれない主さま。
ただまっすぐ息吹を見つめて“愛している”と言えばすぐ問題解決しそうなものなのに――
「椿……さん…?」
鍵を開けて中に入ると、蔵の左隅にはきちんと背筋を正して正座をしていた椿姫が顔を上げてこちらを見ていた。
「あ、あなたは……」
「…こんにちは、息吹と言います。あなたとお話しがしたくて来ました」
互いに見つめ合う。
同じような境遇を持ったふたりが――
「あ、雪ちゃん。うん、元気だよ。急に飛び出して行ってごめんね」
「や、それはいいんだ。こうして戻って来てくれたからさ」
番傘を差した雪男がはにかんで息吹の手を握った。
雪の身体の雪男は人の体温だけでも火傷するので息吹が慌てて手を離そうとするが、雪男はしっかり手を握って離さない。
「雪ちゃん火傷するから…」
「会いたかった。不安だっただろ?会いに行けなくてごめんな」
「……雪ちゃん…」
真っ直ぐな青い瞳で見つめられてついどきっとした息吹は、慌てて俯くと、笑みを噛み殺している晴明の袖を握った。
「ち、父様…」
「さあそこまでにしてもらおうか。私の愛娘に求愛しようというのならば手順を踏みなさい。まずはそうだな、恋文からかな」
「ちぇっ、そろそろ子離れしろよな晴明」
「さあそれはいつのことやら。さあ行こうか」
一度庭の前で立ちどまった息吹は、大切に育てた花が一輪も枯れずに見事に咲き誇っているのを嬉しく思いながら蔵に向かう。
あの蔵にはほとんど入ったことがないが、あんな薄暗い場所に閉じこめて一体どうなっているのか――
「こんな所に居るの?大丈夫なの?」
「とある事情があって母屋では匿えぬ。それも椿姫から直接聞くといいよ」
「はい。じゃあお願いします」
晴明が主さまから借り受けた鍵で錠を開けると、姿を消して息吹の隣に居る主さまをちらっと見た。
もちろん息吹には見えていないのだが、それでも傍に居たいと思うほど愛しているのにこの不器用さが邪魔をして素直になれない主さま。
ただまっすぐ息吹を見つめて“愛している”と言えばすぐ問題解決しそうなものなのに――
「椿……さん…?」
鍵を開けて中に入ると、蔵の左隅にはきちんと背筋を正して正座をしていた椿姫が顔を上げてこちらを見ていた。
「あ、あなたは……」
「…こんにちは、息吹と言います。あなたとお話しがしたくて来ました」
互いに見つめ合う。
同じような境遇を持ったふたりが――

