主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

事を急ぐといい結果にはならない。

主さまは毎日通ってきているし、椿姫は大人しく蔵に居る。

そして目下捜索中の酒呑童子は、現れる気配がない。


晴明は息吹と共に夕餉を食べながら、少し晴れやかな表情をしている息吹に微笑を浮かべた。


「息吹、そなたが会いたいと思った時に会いに行きなさい。私が連れて行ってあげよう」


「はい。ちょっとだけ考えてからいつ会いに行くか決めます。最近この子がとても元気でちょっとつらいの」


――逆子の我が子は元気いっぱいで、身体が揺らぐほど蹴ってきたりする。

もちろん痛くはないのだが、身体が重たくて立ちあがったり寝返りを打ったりするのがつらいことは事実。

それに…

主さまは、姿を見せずとも毎日に会いに来てくれている。

今後も姿を見せることはないかもしれないが…金平糖は受け取ってくれた。

つまり、こちらが気付いていることも知っているし、こちらが声をかければ…姿を現すかもしれない。


以前はここから幽玄町に通い詰めたものだが――今回は逆だ。

主さまが、自分に会いに来てくれる――


「月が綺麗…」


夕餉を食べ終えると、息吹は草履を履いて庭先に降りた。

今夜も主さまは百鬼夜行を行って、幽玄町に戻らずここへやって来るのだろう。


あの目の下のくま…疲れた表情…

寝たふりをしていれば、今日のように隣で一緒に寝てくれるかもしれない。


「父様…主さまって本当に不器用だよね」


「そこだけは昔から治らぬ。それに私に言い負かされた時のあ奴の表情も昔から変わらぬ。不器用故、本音しか口に出すことができぬ。それはそなたもよく知っているはずだね」


「うん…。私…逸った選択をしたと思う?」


盃を傾けていた晴明の手が止まった。

息吹が揺れていることは知っていたが、強烈な引力で惹かれ合っている両者が離れるべきではないと今でも思っている。


「…私はそなたが幸せになれる道を模索している。そなたも十六夜の傍にいると幸せになれぬから離縁を申し込んだのではないのかい?」


「……わからないの。幸せだったけど…不安もあったし…」


何故別れを決断したのだろうか?

考えれば考える程に、答えは出なかった。