明け方戻って来る主さまとこうして少しだけ一緒に寝るのが好きだった。
これからはもう…それができないのだと思うと悲しいし、それに…
主さまも同じ気持ちで隣に寝ているのだろうと思うと…切ない。
「…主さま…私…あの女の人の話を聞くべきなの…?」
熟睡しているのか反応はなく、大好きだった大きな手がすぐ傍にある。
触れたいが…触れられない。
触れると起きてしまうだろうし、それに自分が起きてしまえば主さまはまたすぐ姿を消してしまうだろう。
――お揃いの橙色の髪紐をつけてくれていた。
やつれた印象の主さまが痛々しくて、自分が傷つかないために去ることを決断した自分自身の判断は正しかったのかどうか…迷ってしまう。
「……」
話しかけることができなくてそのままじっと見つめていると、主さまが身じろぎをしたので慌てて目を閉じて寝たふりをする。
するとしばらく見つめられているのがわかり、緊張しながらさらに寝たふりを続行した息吹は、両頬を掌で包まれた感触にまさか、と思った瞬間――
「…!」
唇と唇が、重なった。
だがそれは掠るような口づけで、数秒続いた後離れていき、恐る恐る目を開けると…主さまは姿を消して居なくなっていた。
「…今…何を……」
久し振りに――主さまと口づけを交わした。
“今でも愛している”と言われた気がした。
ぽろぽろと涙が零れて止まらなくなった息吹は、重たい身体を起こしてふらふらしながら晴明の私室の襖をぽすぽす叩いた。
「おや、息吹?どうしたんだい?」
「私の部屋に誰かいる気配がしたんだけど…気のせい?」
晴明は一瞬目を見張ったが、にこりと微笑んで息吹の肩を抱くと部屋の中へと入れる。
「部屋には私が結界を張ってあるから十六夜は入れぬはずだが」
「そう?なら私の勘違いかな…。変なこと聞いてごめんなさい」
「誰か居る気配がしたのかい?」
優しい嘘をついた晴明の心遣いにまた涙ぐんでしまった息吹は首を振って目尻を拭った。
「ううん、私の気のせいだからいいの」
主さまも晴明も優しくて、無性に泣けてきた。
これからはもう…それができないのだと思うと悲しいし、それに…
主さまも同じ気持ちで隣に寝ているのだろうと思うと…切ない。
「…主さま…私…あの女の人の話を聞くべきなの…?」
熟睡しているのか反応はなく、大好きだった大きな手がすぐ傍にある。
触れたいが…触れられない。
触れると起きてしまうだろうし、それに自分が起きてしまえば主さまはまたすぐ姿を消してしまうだろう。
――お揃いの橙色の髪紐をつけてくれていた。
やつれた印象の主さまが痛々しくて、自分が傷つかないために去ることを決断した自分自身の判断は正しかったのかどうか…迷ってしまう。
「……」
話しかけることができなくてそのままじっと見つめていると、主さまが身じろぎをしたので慌てて目を閉じて寝たふりをする。
するとしばらく見つめられているのがわかり、緊張しながらさらに寝たふりを続行した息吹は、両頬を掌で包まれた感触にまさか、と思った瞬間――
「…!」
唇と唇が、重なった。
だがそれは掠るような口づけで、数秒続いた後離れていき、恐る恐る目を開けると…主さまは姿を消して居なくなっていた。
「…今…何を……」
久し振りに――主さまと口づけを交わした。
“今でも愛している”と言われた気がした。
ぽろぽろと涙が零れて止まらなくなった息吹は、重たい身体を起こしてふらふらしながら晴明の私室の襖をぽすぽす叩いた。
「おや、息吹?どうしたんだい?」
「私の部屋に誰かいる気配がしたんだけど…気のせい?」
晴明は一瞬目を見張ったが、にこりと微笑んで息吹の肩を抱くと部屋の中へと入れる。
「部屋には私が結界を張ってあるから十六夜は入れぬはずだが」
「そう?なら私の勘違いかな…。変なこと聞いてごめんなさい」
「誰か居る気配がしたのかい?」
優しい嘘をついた晴明の心遣いにまた涙ぐんでしまった息吹は首を振って目尻を拭った。
「ううん、私の気のせいだからいいの」
主さまも晴明も優しくて、無性に泣けてきた。

