主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

主さまが息吹の隣で眠ってしまうと、晴明は起こすでもなくもう1枚の掛け布団を身体にかけてやってやつれた主さまを見つめていた。


疲弊しきっているのは主さまも息吹もお互い様だ。

互いに恋焦がれて今でも愛し合っているのに、椿姫の策略に嵌まって引き裂かれてしまったふたり――


だが答えは出ている。

耐えなければならないのは…


「息吹…そなただ。そなたが十六夜の心情を理解してやることが必要なのだ。そなただけが苦しんでいると思っているのかい?十六夜はこの先もずっと百鬼を率いて百鬼夜行を続けなければならぬのだぞ」


それが宿命の家に生まれた主さま。

普段は冷静だが時に荒ぶることがあり、女遊びもしてきた。

そのつけが今回ってきているといえばそれまでなのだが…息吹は毎日毎夜主さまを百鬼夜行に送り出さなければいけないことを重々理解して夫婦になったはず。


つまりはお互い様なのだが――晴明としては主さまは親代わりだし、息吹は自分が親代わりだ。

両方大切で、しかも双方が今こんな状況になっていることに晴明もじわじわと焦りを覚えていた。


…酒呑童子が見つからない。

都に結界を張っているせいか、乗り込んでくる気配は一切ない。

主さまも百鬼夜行をしつつ酒呑童子を捜し回っていたが、毎回朗報はない。


「なんとも歯がゆいことだ。…どれ、薬でも煎じてこよう」


晴明が息吹の頬を撫でて部屋を出てしばらくした時――

晴明ではない何者かの気配を感じて目覚めた息吹は、ぼんやりしながら右隣に目を遣った。


そしてそこには――こんなに間近で見たのは久しぶりの主さまが眠っていた。


「…!主…さま……」


…目の下に隈がある。

毎日のように通い詰めてきていても姿を見せず、会わずにやり過ごしてきたが…


間近で見ると、愛しさが溢れて来て言葉に詰まってしまう。


「主さま……また姿を消して私の傍に…?」


正体を明かさず十六夜と名乗って傍に居てくれた日々が懐かしい。

時々感じていた視線は…やはり主さまだったのだろうか?


「…主さま……」


言葉に詰まる。

胸が、詰まる。