主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

にゃあにゃあ鳴いている猫又と息吹と若葉と一緒に遊んでいる息吹の姿は微笑ましくて懐かしくて――


姿を消して息吹のすぐ近くに座った主さまは、大きくなった腹に目を遣ってきりきりと胃が痛むような想いになっていた。


…息吹が隣で寝ていない生活は、思っていたよりも苦痛だ。

息吹が出迎えてくれない生活は、思っていたよりも苦痛だ。

息吹が送り出してくれない生活は、思っていたよりも――


「息吹、お腹が大きくなったにゃ。いつ産まれるにゃ?」


「もうちょっとだよ。ただちょっと難しいお産になるらしくて…それが不安かな」


「お産の時は僕も傍にいるにゃ。主さまだって…」


猫又は息吹に悟られないように、縁側に座っている主さまをちらりと盗み見た。

主さまはその視線に気付いていたが、何度も息吹に声をかけそうになってはそれを堪えて…その繰り返しで、唇を噛み締めていた。


「息吹、薬湯を持って来たよ。そろそろ少し休んだ方がいい」


「父様。ありがとうございます」


自ら煎じた薬湯を持ってきた晴明は、手を伸ばせば触れそうな位置に座っている主さまに全く気付いていないようにしてふたりの間に割り込んで座った。


息吹は何の疑いもせずに薬湯を口に運ぶと、数分もしないうちにうとうとし始めて晴明が床に横たえさせる。


「逆子とは何かとてつもなく驚いた時などになると言う。誰のせいとは言わぬが一応豆知識を披露しておこう」


「……俺のせいか」


「ほう、そなたのせいとは言ってはいないがそう思うならば否定はせぬが」


「…お前は相変わらず性格が悪いな」


「愛妻の存在を忘れるまでに理性を失って椿姫を貪り食っていた駄目夫が何を言うか。本来ならば八つ裂きにしても怒りが収まらぬところを私は堪えているのだぞ」


…全くもって反論できない。

主さまはすやすや眠っている息吹の肩まで掛け布団をかけてやると、猫又や晴明が見守る中息吹の隣にごろんと寝転がった。


――最近ずっと安眠できない。

眠れたとしても小一時間かそれ以下で、それでも毎夜百鬼夜行は行われて疲労は蓄積してゆく。


「息吹……」


声色に切なさと愛しさが如実に籠もる。


犯した罪の罰は、あまりにも重たかった。