主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

食べ終わるまで蔵に居座るつもりだった。

つぶさに椿姫を観察していた山姫は、いかにも男の庇護欲をそそりそうなしとやかな椿姫に猛烈な嫌悪感を感じていた。


元々自分の性格からしてこういった女は苦手だと自負していたが…

主さまと息吹が離縁までに至る状況を作り出した椿姫には同情する余地もなければさっさと酒呑童子が奪いに来てここから出て行ってほしいとも思っていた。


「早く食べな。あんたと一緒の場所にいるなんて虫唾が走るよ」


「申し訳…ありません…」


「おい山姫、あんまいじめんなよ。戻って来いよ」


見知らぬ男の声がして箸が止まった椿姫が身構えながら入り口に視線を遣る。

そこには男にしては真っ白な肌と真っ青な髪と瞳をした明らかに人の美しさではない人外の男が呆れ顔で立っていた。


「あなたは……」


「俺は雪男だ。お前が主さまと息吹の仲を……まあいいけどさ。これで誰にも邪魔されずに息吹を口説けるし」


「あんた…主さまの子を育てることができるのかい?あたしは反対だからね。息吹は主さまでなきゃ駄目なんだ」


「決めつけるよな。ほら行くぞ。いじめてるとお前の旦那や主さまが怒るからな」


持ってきた食事を半分ほど食べて椿姫が箸を置くと、山姫は無言のまま盆を持って蔵を出て行く。

しっかり蔵に鍵をかけて庭を歩き、母屋に着くとふたりで縁側に座って月を見上げた。


「主さまは晴明の屋敷に通い詰めるつもりらしいねえ。…息吹が主さまに会ってくれればいいんだけど」


「今回は無理かもな…。俺だって主さまだから渋々諦めてるのに」


「あんたも大概しつこいねえ。…主さまは不器用だし息吹は頑なだし…これからどうすればいいんだい」


主さまが息吹を諦めるつもりもないことが救いだ。

今までずっと独り身を貫いてきて、そして息吹を選んだ時は本当に嬉しくて…

その幸せが僅かな時間で終わることだけはさせたくない。

可愛い愛娘を想って山姫が涙ぐむと、雪男は黙って肩を抱き寄せて顔を埋めさせた。


「晴明には内緒だからな。こんなことしてるの知られたら殺されちまう」


「ふふ、あんた…色男だねえ」


それから主さまは晴明の屋敷に通い詰めることになる。