主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

蔵に閉じ込められている椿姫は、夜になって騒いでいた妖たちが静かになったので立ち上がると手の届かない位置にある格子を見上げた。


…あの十六夜という男は百鬼夜行を総べる者。

そして酒呑童子はその地位を狙って執拗に主さまに挑戦する者。


…正直最初は共倒れになってくれればいいと思っていた。

酒呑童子も主さまと呼ばれている男も…妖は滅びればいいと思っていた。


「……彼方…様…」


助けてくれた男は鬼で…自分を食おうとしていたことは事実だ。

だがそれを知る以前は惚れぬいて…一生傍に居させてほしいと願った程に好いた男だ。

そんな惚れた男に裏切られた行為――許すことはできない。


だが同時に…


「あの方が…殺されてしまう……」


恐らく酒呑童子は主さまには適わない。

そして今どこで何をしているかもわからず、あの神社に監禁された時は毎日会いに来たのに今は…主さまが現れて以来、ずっと会っていない。


「私のことは…もう…どうでもいいと…?」


激しく葛藤していた。

恨む想いと慕う想い――両方が拮抗して、答えが出ない。


椿姫が力なく座り込んだ時、蔵の鍵が開く音がした。

主さまか晴明が戻って来たのかと緊張して身体を強張らせていると、中へ入ってきたのは赤茶の長い髪をした女だった。

ここへ連れてこられた時、一瞬だけ見た女。


「…あんたの食事を持って来たよ」


「あ、あなたは…妖なのでは…」


「だから何だって言うのさ。あたしは妖だけど、息吹の母代りだ。あんたにはきっちり落とし前つけてもらうからね」


持って来た料理は人間仕様のもの。

一体どんな下手物を持ってくるのかと思っていたので、漬物とすまし汁と魚、米料理を見た椿姫の瞳は驚きに大きく見開かれていた。


「息吹…さんの…母代り…?」


「あの子は赤子の頃に親に捨てられた不憫な子なんだ。…あんたもそうかもしれないけど、あの子の方がずっと不憫なんだ。…やっと手に入れた幸せをあんたがぶち壊したんだからね」


非難されて俯いた椿姫は、ぽつりと謝罪を口にした。


「申し訳ありません…」


そう言うことしかできなかった。