主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

主さまが久々に百鬼夜行を率いる。


主さま不在の間は銀だったりぬらりひょんだったり側近と言われる大妖が代理を務めていたが…いまいちぴりっと締まらなかった。


「おお、今夜から主さまが率いて下さるのか」


「それは嬉しいが……だが息吹はどうなった?」


夕暮れに差し掛かって幽玄町に戻って来た主さまを出迎えた百鬼たちがひそひそ小声で険しい表情をしている主さまを盗み見ながら言葉を交わす。


主さまはただただ黙り込んで、庭先に出て来た山姫と雪男と少しだけ何かを話して百鬼たちを見回した。


「…長い間留守にしてすまなかった」


「戻って来てくれたからいいんです。でも……」


「息吹はどうしたのにゃ?どうして戻って来ないのにゃ?」


ずばっと真相に斬り込んだのは、息吹が幼い頃から可愛がっていた猫又だ。

いらいらしながらふたつに分かれた尻尾を揺らして主さまに詰め寄ると、皆が息を呑んで最も知りたい話題に耳を傾ける。


ちらりと猫又を見遣った主さまは、遅れてやって来た銀が縁側に腰掛けたのを見ると、正直に語った。


「…離縁を願い出て来た」


「!?なんと…!だが息吹は身重で…主さまの子を…」


「…俺が悪い。だが離縁はしない。息吹はしばらくここには戻って来ない。…俺も日中はここを留守にする。…諦めるものか」


主さまが執着を見せるのは、息吹だけだ。

あの快活で穏やかで笑顔の可愛い息吹を昔から可愛がっていた百鬼たちにとっても、ここは主さまに踏ん張ってもらってなんとか離縁を避けたいところ。


「僕息吹に会いに行くにゃ!」


「猫又…お前は許す。その他大勢はしばらくの間息吹をそっとしておいてやってくれ。…さあ、行くぞ」


主さまが空を駆け上がると、百鬼たちもそれに続いて百鬼夜行が始まる。


銀は主さまの後ろを行きながら、ぽつりと呟いた。


「…寂しそうな背中だな」


何もかも失いかけている主さまを助けてやりたい。

ふたりを引き合せて穏やかな時間を作って――


「…今は無理か」



以前息吹に貰った鈴の音を響かせながら、主さまが空を行く。