主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

産婆が屋敷を後にすると、終始俯いていた息吹は手を握ってきた晴明の身体に縋り付いて唇を震わせた。


「父様…この子…逆子だって……」


「そうだね、だが健やかに育っているとも言っていた。最近目まぐるしく環境や状況が変わったから、驚いて身体の向きを変えたのやも」


「そう、なの…?ちゃんと…産まれてきてくれる…?」


「もちろんだとも。私が我が手で孫を取り上げるのだ。間違いが起こるとても思うのかい?」


晴明に安心感を与えられて張りつめた糸が切れたのか、もそりと床に戻った息吹が身体を横たえる。


それまで呆然として…愕然として言葉を発することのできなかった主さまをじっと見つめた晴明は、脇に置いていた盆から煎じた薬を一包息吹に見せて青白い頬を撫でてやった。


「これはよく眠れる薬と栄養剤を混ぜたものだよ。私特製の薬故効果は高い。毎日これを呑みなさい」


「はい…。父様…傍に居てくれないの…?」


「屋敷には居るから安心しなさい。式神を置いて行くからね、何かあったらすぐおいで」


晴明が息吹を嗜めて部屋を出た。

言われた通りに起き上がって薬を水で喉に流し込んだ息吹は、力なくまた横になって瞳を閉じる。

本人が自信を持って言えるほどのものなので、劇的な効果を発した薬はすぐに息吹を眠らせてしまった。


「…………息吹……」


それまで部屋の隅に座っていた主さまが腰を上げて息吹の傍らに座った。

…細い手…やつれた顏…何もかもが自分のせいだと如実に語っているようで、心が痛む。



「…俺のせいなんだ。息吹…それでも俺は……お前を愛している」



幸せも安心も、喜びも…全て分かち合うはずだったのに。

筆舌に耐えがたい苦しみと不安を与えて、離縁したいと願い出るほどに悩んで…悩ませて……


それでも、諦めたくない。


「傍に居る。ずっとお前の傍に」


姿を消して完全に気配を絶ってでも、傍に居たい。


「俺にはお前が必要なんだ。息吹…」


過ちをなかったことにすることはできない。


許してもらえるまで息吹に懺悔して、罵声を浴びせられても傍にいることを誓った主さまは、息吹の唇にそっと口づけをして夕方になるまでずっと手を握っていた。