主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

こんなだまし討ちみたいな方法で息吹に会いに行っていいのだろうか?

そう自問しつつも脚は勝手に息吹の部屋へと向かい、姿を消しているにも関わらずこちらを見て口角を上げて笑った晴明と目が合った。


「…では産婆殿。私の娘を診て頂きたい。我が孫は順調だろうか」


「はい。では脈と触診を少々」


長い白髪の髭をたくわえた好々爺は床に横になっている息吹の脈をとった。

…青白い顔をしている息吹をこうしてじっくり見つめたのは久しぶりで、訳もなく視界が歪んでしまう。

片手で口元を覆いながら音を立てないように注意しつつ部屋に入った主さまは、隅に腰を下ろして息吹の方へと身を乗り出す。

晴明は息吹にそれを知らせることなくただ黙ったまま産婆の一挙手一投足を見ていた。


だが…徐々に表情が怪訝なものへと変わっていった。

何故ならば、産婆の触診が終わらないからだ。


「産婆殿…?息吹はどうなのだ」


「ううむ……これは…難産になるやもしれませぬ」


思わず腰を浮かせた主さまが目を見張る。

息吹も予想していなかったのか唇を震わせて、両手で腹を庇いながら起き上がった。


「でも…でも元気に動いてます!どうして難産だってわかるんですか…!?」


珍しく声を荒げて産婆を問い詰める息吹の瞳には紛れもない不安と動揺の色。

産婆は低く唸りながら水で手を洗うと、息吹に横になるように言って腹の上に掌を乗せた。



「恐らく…逆子です」


「逆子……」


「通常ならば産道の方に頭が向いているのですが…逆なのです。お産に長時間を要します。あなたの体力と気力が保てれば、あるいは…」



息吹の愕然とした表情を診た主さまもまた同じ表情になって唇を震わせる。

…ひとりで産もうというのに、さらに難産になると言われてどれほどつらくて苦しいことか――


部屋が沈黙に包まれると、晴明が口火を切って産婆に頭を下げた。


「難しいお産になるが、私が我が孫をこの手で取り上げる。産婆殿、ご教授をよろしく頼みたい」


「はい」


――眩暈がした。


息吹にはつらいことばかりが降りかかる。


その原因を作っているのは自分なのだ。


自分が、息吹の元凶――