主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

その夜の百鬼夜行――

主さまの足取りはどこか軽やかで浮かれているように見えた。

すぐ後ろを歩いていた銀は主さまの横に並んでにやついていた口元を見ると、主さまは表情を引き締めて銀を睨みつけた。


「俺の横に並ぶな」


「息吹と離れたというのになんだその顔は。妙に嬉しそうだな」


「うるさい。今頃親父や母に何を吹き込まれていることやら…」


「あの気難しいお前の両親に認められれば心も軽くなるものだろうが。周は美しいがなにぶん吐く言葉に毒がある。どうだ、息吹を認めてもらえそうなのか?」


銀は頻繁に息吹に干渉する。

似てはいないと思っているのだが、銀の姉である葛の葉に面影が似ているとかで息吹を可愛がっているし、また息吹も銀のふかふかの耳と尻尾が大好きで、しょっちゅう触っている姿を目にしてきりきりしなければならない日々が続いている。


「…わからないが、少なくとも悪いようには感じていないはずだ。…今夜の百鬼夜行は早めに切り上げたい」


「ああ、高千穂に戻らなければならないからな。途中で抜けても構わないぞ、俺が適当に後を引き継いでおく」


かつて百鬼夜行の主の座を巡って銀と死闘を繰り広げたことのある主さまは、一瞬銀がまたその野心を叶えようとしたのかと思ったが…銀もまた、幽玄町に残しているものの存在に日々格闘している。

小さな赤子の若葉が無事に成人して嫁に行くまで真面目になると約束しているし、百鬼の契約を交わした者は主さまに牙を剥くことはできない。


「いや、いい。それより気を引き締めろ。悪行を働く輩が居ればすぐに殲滅に向かえ」


時々力のある妖と戦って怪我をする百鬼も多く、そういった時は主さま自らが斬り込んでいって殲滅する。

だが怪我をしたものは何故かうきうきしながら幽玄町に戻り、出迎えてくれる息吹の前でそんなに痛くもないはずなのに声を上げて痛いと訴え、治療してもらって嬉しがる者も多い。

彼らにとっては息吹は娘であり、お姫様だ。

彼らの話の大半が息吹のことでもあり、お転婆でじゃじゃ馬だった息吹にされた悪戯などを披露し合って自慢している姿をよく目にする。


「俺も早く戻らないとまた若葉がぐずる。あいつは俺か息吹が傍に居ないとなかなか寝ないんだ。どうだ、俺と息吹が夫婦のようで羨ましいだろう」


「うるさい。駆け足で終わらせるぞ、ついて来い」


早く息吹の元へ戻って出迎えてもらおう。

一緒に温泉へ入って甘えることで頭がいっぱいになっていた。