主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

「酒呑童子様……!これはどういうことなのですか!?」


翌朝密会にやって来て詰め寄って来た茨木童子の権幕は凄まじく、酒呑童子は家からかなり離れた位置に茨木童子を呼び出して端的に昨晩の事情を話した。

茨木童子の表情はみるみる険しいものとなり、膝をついて添えていた手の拳が震えているのを見つつも、酒呑童子は身体を折ってぐっと顔を近付けると忠告をする。


「椿姫を食うのはしばらくの間やめる、と言ったんだ。あと住処を捜す。こんな場所では椿姫の心も晴れないだろう」


「場所など関係ありません。食うだけならばどこでもできます。酒呑童子様…何を言っているのかわかっているのですか!?」


「…なんだ?」


「まるで夫婦のようだ。椿姫と言う女を語る時のあなたの瞳…まるで恋を…」


言いかけた茨木童子の襟首を掴んで持ち上げた酒呑童子は、鋭い牙を剥き出しにして吠えた。


「ふざけるな!俺が…恋だと!?そんなものにうつつを抜かしている暇はない!俺は力をつけてあの百鬼夜行の主を殺して妖の王となる!何を血迷ったことを…」


「血迷っているのはあなただ!本願がわかっているのならば今すぐ女を食って迷いを断ち切って下さい!お願い申し上げます!」


――埒が明かない。

こんなことで口論をするのも馬鹿馬鹿しいと背を向けた酒呑童子は、酒呑童子様と名を呼んで振り向かせようとする茨木童子を無視して家の方へと歩き出す。

言われた言葉が何故か無性に胸に引っかかって、かきむしりたくなっていた。


「お前はしばらくここに来るな。俺の言うことが聞けないのであれば俺だけでどうにかする」


「酒呑童子様…!……俺はあなたの手足だ。あなたの望みは叶えて差し上げたい。それがいずれ…打倒百鬼夜行の主と繋がるのならば」


「……もういい。行け」


早足で家へと戻った酒呑童子を出迎えたのは、いつも身ぎれいにして帰りを待っている椿姫だ。

戸を開けるとすぐに駆け寄ってきて見上げる眼差しは愛情に溢れ、腰を抱いて抱き寄せるとえもいわれぬ良い香りがする。


「お帰りをお待ち申し上げておりました。彼方様…」


「家を捜す手筈を整えていた。もうしばらくはここで耐えてもらうが、こんな鬱蒼とした山中ではなく明るい場所だ。楽しみにしていてくれ」


「あなたと一緒ならば場所なんてどこでも……」


愛情を示してくれる椿姫を…食う?

それはとても想像できなくて、ただ抱きしめる。