風呂に入っている間に彼方が台所でちょっとした料理を作り、部屋に戻って来た時にはすでに盃を手に待ち構えている状態の彼方を見た椿姫は笑みを誘われて琴の前に座った。
「いつから待っていて下さったのですか?」
「ずっとだ。もしかしたら音に酔いしれて寝てしまうかもしれないからその時は容赦なく起こしてくれ。さあ」
「はい」
幼い頃から慣れ親しんだ琴。
両目を閉じていても弾けるほどの腕前の椿姫は、文字通り瞳を閉じて弦を弾く。
あばら家のような家はその音を奏でた途端、宮廷のように華やかな雰囲気に包まれて、彼方は目を見張って部屋を見回した。
「美しい。琴の音もそうだが……」
――もったいなく感じ始めていた。
見目が美しく、教養もあって女らしくおしとやかだ。
良い拾い物をしたとほくそ笑んではいたのだが……食うのがもったいない。
本来は人を食う時に恐怖の眼差しで見つめられることが心地よかったのだが…椿姫の場合はどうだろうか。
住まいを同じくして少し情が湧いてしまい、首を振って考えを否定した彼方こと酒呑童子は、それでも琴の音に聞き入って感嘆の息をついた。
「素晴らしいな。お前が名家の出というのは本当だったのか」
「嘘はついておりません。私は…見捨てられたのです。ですがもう…過去のこと。彼方様…私は白拍子として生きることを決意いたしました」
「白拍子……?だがそれは…」
弦を弾いていたしとやかな指が止まる。
白拍子がどういう職業なのかちゃんと知っているのかと言いかけて、それよりも食う方が先決だから白拍子などにならなくていいと言って今襲いかかった方がいいのか――
酒呑童子が言葉を紡げずにいると、椿姫は固まっている彼方の前に移動して正座をすると、深々と頭を下げた。
「見知らぬ殿方に肌を許してしまっては私の矜持に傷がつきます。彼方様…あなたは見知らぬ殿方ではありません。ですから……」
「……椿姫…」
身を捧げたいと小さな声で呟いた椿姫に胸が疼いた。
文字通りの結末を望んでいたはずなのに、酒呑童子の牙はなりを潜めて細い両肩を抱いて引き寄せた。
「いつから待っていて下さったのですか?」
「ずっとだ。もしかしたら音に酔いしれて寝てしまうかもしれないからその時は容赦なく起こしてくれ。さあ」
「はい」
幼い頃から慣れ親しんだ琴。
両目を閉じていても弾けるほどの腕前の椿姫は、文字通り瞳を閉じて弦を弾く。
あばら家のような家はその音を奏でた途端、宮廷のように華やかな雰囲気に包まれて、彼方は目を見張って部屋を見回した。
「美しい。琴の音もそうだが……」
――もったいなく感じ始めていた。
見目が美しく、教養もあって女らしくおしとやかだ。
良い拾い物をしたとほくそ笑んではいたのだが……食うのがもったいない。
本来は人を食う時に恐怖の眼差しで見つめられることが心地よかったのだが…椿姫の場合はどうだろうか。
住まいを同じくして少し情が湧いてしまい、首を振って考えを否定した彼方こと酒呑童子は、それでも琴の音に聞き入って感嘆の息をついた。
「素晴らしいな。お前が名家の出というのは本当だったのか」
「嘘はついておりません。私は…見捨てられたのです。ですがもう…過去のこと。彼方様…私は白拍子として生きることを決意いたしました」
「白拍子……?だがそれは…」
弦を弾いていたしとやかな指が止まる。
白拍子がどういう職業なのかちゃんと知っているのかと言いかけて、それよりも食う方が先決だから白拍子などにならなくていいと言って今襲いかかった方がいいのか――
酒呑童子が言葉を紡げずにいると、椿姫は固まっている彼方の前に移動して正座をすると、深々と頭を下げた。
「見知らぬ殿方に肌を許してしまっては私の矜持に傷がつきます。彼方様…あなたは見知らぬ殿方ではありません。ですから……」
「……椿姫…」
身を捧げたいと小さな声で呟いた椿姫に胸が疼いた。
文字通りの結末を望んでいたはずなのに、酒呑童子の牙はなりを潜めて細い両肩を抱いて引き寄せた。

