「戻ったぞ」
家に戻って来た彼方は、こちらに背を向けて正座している椿姫にそう声をかけたのだが…振り返らない。
どうしたのかと草履を脱いで中へ上がって正面に回り込むと、椿姫の顔を見て――その変化にすぐ気付く。
椿姫を拾った時とは明らかに顔が違い、紙に包んでもらっていた手土産を脇に置くと、さらに顔を覗き込んだ。
「お前…化粧をしているのか?さらに見違えるほど美人になったぞ、驚いたじゃないか」
「彼方様に頂いた化粧道具を使わせて頂きました。…どうでしょうか…おかしくはありませんか?」
「全然おかしくない。お前を拾った時は髪は乱れていたし、顔は涙でぐちゃぐちゃだったからな。じゃあ今から俺がお前の顔がもっと輝くものを見せてやる」
「え……?」
にこっと笑った彼方は脇に置いていた包みを椿姫の前に置く。
土産だと言った彼方がもってきたものは横幅のあるもので、顔色を窺いながらそっと包み紙を剥がすと――
「これは……かなた様……琴ですか…?!」
「お前の琴の腕前を披露してもらいてくて用意してもらった。なかなかの名器だそうだから、さぞ良い音を聞かせてくれるだろう。さあ、弾いてみてくれ」
名家の出なだけに教養だけは無駄にある。
それを授けてくれた両親に感謝しつつ、涙で目が掠れそうになって着物の袖で拭うと、正確に調弦されていた弦を指で弾くと、なんとも言えない美しい音が鼓膜を震わせて指を止める。
「とても素晴らしい音…!彼方様…さぞかし値が張ったのでは…」
「なに気にするな。今夜はお前の琴の音を聞きつつ酒でも飲むか。よかったら舞いも見せてくれ。俺も少しなら踊れるぞ」
「まあ…。ふふ、ありがとうございます。彼方様に色々よくして頂いてどうお返しをすればいいのでしょうか…」
「お前は色々気にし過ぎだ。そうだな、だが何かくれると言うのなら考えておく。お前が手に入れられそうで、俺が喜びそうなものを」
ごろんと寝転んだ彼方が無邪気な笑みを見せる。
男とほとんど会話をしたこともなかった椿姫は彼方の言動ひとつひとつにときめいて、それを隠すためにすくっと立ち上がって台所に向かった。
「お茶くらいお入れいたします」
「ありがたい。ちょうど喉が渇いていたんだ」
台所に立った椿姫は、まるで夫婦のようだと感じて頬を赤らめながら湯を沸かす。
彼方が喜ぶことなら何でもしてあげたいと思い始めていた。
家に戻って来た彼方は、こちらに背を向けて正座している椿姫にそう声をかけたのだが…振り返らない。
どうしたのかと草履を脱いで中へ上がって正面に回り込むと、椿姫の顔を見て――その変化にすぐ気付く。
椿姫を拾った時とは明らかに顔が違い、紙に包んでもらっていた手土産を脇に置くと、さらに顔を覗き込んだ。
「お前…化粧をしているのか?さらに見違えるほど美人になったぞ、驚いたじゃないか」
「彼方様に頂いた化粧道具を使わせて頂きました。…どうでしょうか…おかしくはありませんか?」
「全然おかしくない。お前を拾った時は髪は乱れていたし、顔は涙でぐちゃぐちゃだったからな。じゃあ今から俺がお前の顔がもっと輝くものを見せてやる」
「え……?」
にこっと笑った彼方は脇に置いていた包みを椿姫の前に置く。
土産だと言った彼方がもってきたものは横幅のあるもので、顔色を窺いながらそっと包み紙を剥がすと――
「これは……かなた様……琴ですか…?!」
「お前の琴の腕前を披露してもらいてくて用意してもらった。なかなかの名器だそうだから、さぞ良い音を聞かせてくれるだろう。さあ、弾いてみてくれ」
名家の出なだけに教養だけは無駄にある。
それを授けてくれた両親に感謝しつつ、涙で目が掠れそうになって着物の袖で拭うと、正確に調弦されていた弦を指で弾くと、なんとも言えない美しい音が鼓膜を震わせて指を止める。
「とても素晴らしい音…!彼方様…さぞかし値が張ったのでは…」
「なに気にするな。今夜はお前の琴の音を聞きつつ酒でも飲むか。よかったら舞いも見せてくれ。俺も少しなら踊れるぞ」
「まあ…。ふふ、ありがとうございます。彼方様に色々よくして頂いてどうお返しをすればいいのでしょうか…」
「お前は色々気にし過ぎだ。そうだな、だが何かくれると言うのなら考えておく。お前が手に入れられそうで、俺が喜びそうなものを」
ごろんと寝転んだ彼方が無邪気な笑みを見せる。
男とほとんど会話をしたこともなかった椿姫は彼方の言動ひとつひとつにときめいて、それを隠すためにすくっと立ち上がって台所に向かった。
「お茶くらいお入れいたします」
「ありがたい。ちょうど喉が渇いていたんだ」
台所に立った椿姫は、まるで夫婦のようだと感じて頬を赤らめながら湯を沸かす。
彼方が喜ぶことなら何でもしてあげたいと思い始めていた。

