あばら家のような家で過ごすことには少なからず抵抗があった。
風呂はあるが狭いし、彼方が水を張って沸かしてくれるのだが……こんな生活に慣れなければならないのかと思うと、気が滅入ってしまう。
しかも着のみ着のままで出てきて惨事に見舞われたので、よく弾いていた琴が懐かしくなって琴の弦を弾く動作をしていると、彼方の目に留まった。
「それは何をしているんだ?」
「これは…琴の練習を。私、琴の腕には自信がありました。あと舞いも少々」
「ふうん。何かお前の気が晴れるようなものを持って来てやろうかと思っていたから、よしそれに決めよう。待っていろ」
この家に匿われて1週間――
彼方はいずこからか、食べ物や日用品を毎日のように運んでくる。
布団ももう1組できたのでこれで彼方の身体を休めることができるだろうと安心していたのだが…
しかも極上の琴を所有していたので、安物の琴だと弾く気にはなれないと声を上げようとすると、彼方は思い立ったが吉日と言わんばかりに飛び出して行った。
「そろそろ考えなければ…。やはり白拍子しかないのでしょうか…」
白拍子は遊女と同じ。
男に媚びへつらって身体を売って…そんな身分にまで身を貶めて、一体何を得ることができるのか?
考えれば考える程頭が痛くなり、彼方がけして見てはならないという部屋の最奥の押入れを見つめた椿姫は、首を振ってその押入れを開けようとする考えを封じ込めた。
これは彼方との約束であり、これを破れば…もう自分を庇護してくれなくなるかもしれない。
また死に場所を求めてさ迷うのはもういやだと思った椿姫は、彼方が持ち込んでくれた手鏡で顔を覗き込んでため息をついた。
「そういえば最近全然お化粧をしていなかったわ…」
美しく可愛らしいともてはやされて今まで育ってきた。
教養もあって美人だと言われてその気になって…
だが今、鏡に映っている顔には目の下にくまができて、とても美人だとは言い難い。
――傍らにはこれも彼方が持って来てくれた化粧箱があり、おもむろ観音開きの蓋を開けた椿姫は、黙々と化粧を施して少しは色つやがよく見えるようにと顔に白粉を塗る。
「彼方様……誉めて下さるかしら……」
唯一の味方に、誉められたい。
風呂はあるが狭いし、彼方が水を張って沸かしてくれるのだが……こんな生活に慣れなければならないのかと思うと、気が滅入ってしまう。
しかも着のみ着のままで出てきて惨事に見舞われたので、よく弾いていた琴が懐かしくなって琴の弦を弾く動作をしていると、彼方の目に留まった。
「それは何をしているんだ?」
「これは…琴の練習を。私、琴の腕には自信がありました。あと舞いも少々」
「ふうん。何かお前の気が晴れるようなものを持って来てやろうかと思っていたから、よしそれに決めよう。待っていろ」
この家に匿われて1週間――
彼方はいずこからか、食べ物や日用品を毎日のように運んでくる。
布団ももう1組できたのでこれで彼方の身体を休めることができるだろうと安心していたのだが…
しかも極上の琴を所有していたので、安物の琴だと弾く気にはなれないと声を上げようとすると、彼方は思い立ったが吉日と言わんばかりに飛び出して行った。
「そろそろ考えなければ…。やはり白拍子しかないのでしょうか…」
白拍子は遊女と同じ。
男に媚びへつらって身体を売って…そんな身分にまで身を貶めて、一体何を得ることができるのか?
考えれば考える程頭が痛くなり、彼方がけして見てはならないという部屋の最奥の押入れを見つめた椿姫は、首を振ってその押入れを開けようとする考えを封じ込めた。
これは彼方との約束であり、これを破れば…もう自分を庇護してくれなくなるかもしれない。
また死に場所を求めてさ迷うのはもういやだと思った椿姫は、彼方が持ち込んでくれた手鏡で顔を覗き込んでため息をついた。
「そういえば最近全然お化粧をしていなかったわ…」
美しく可愛らしいともてはやされて今まで育ってきた。
教養もあって美人だと言われてその気になって…
だが今、鏡に映っている顔には目の下にくまができて、とても美人だとは言い難い。
――傍らにはこれも彼方が持って来てくれた化粧箱があり、おもむろ観音開きの蓋を開けた椿姫は、黙々と化粧を施して少しは色つやがよく見えるようにと顔に白粉を塗る。
「彼方様……誉めて下さるかしら……」
唯一の味方に、誉められたい。

