父も母も気まぐれだから、もちろんその子にあたる主さまだって気まぐれに決まっている。
主さまは台所で茶碗を洗っている息吹の隣で手伝うでもなく腕組みをして立っていた。
一緒に居てくれるのは嬉しいが、少々邪魔なために作業がはかどらず、息吹はとうとう主さまの肩を押して隅へと追いやった。
「もおっ、なんなの?手伝ってくれるならまだしも、私に何か用?」
「…俺と入るんじゃないのか」
「え?私と主さまが何に入るの?」
「……わからないならいい。湯から上がったらすぐに戻って来い。母に何を吹き込まれても真に受けるなよ」
手拭いで手を拭いた息吹は背の高い主さまを見上げて表情を探った。
だが元々表情のあまり動かない主さまからは何も読み取れず、感じたのは――女の勘だ。
「わかった。私と主さまが出会う前のお話をお義母様がするかもしれない、ってことでしょ」
「……」
「主さまが女たらしで沢山女遊びしてたこと位知ってるんだから、私だって覚悟してたもん。…やっぱりまだ隠してることがあるってこと?」
「隠していることなどない。話す必要のない話が多いというだけだ」
…うまく言いくるめられた気がするが、それ以上詮索をしても面白い話は出てこない気がしたので、息吹は主さまの自室へ行くと、周が用意してくれた白い浴衣と濃紺の丹前を手にして主さまに笑いかけた。
「じゃあ行って来るね。主さまは潭月さんと一緒に温泉に入ったらどう?」
「お前と入るならまだしも冗談じゃない。それにもう百鬼夜行に行く」
つい本音が出て口を閉ざした主さまの深意にようやく気付いた息吹は、ぽっと頬を染めて俯いた。
時々主さまは一緒に風呂に入りたがることがあり、息吹もそれを嬉しく思っていたので、庭に出ようとしていた主さまの着物の袖を引っ張って振り向かせた。
「じゃあ…百鬼夜行から帰って来たら…一緒に入ろうね」
「…その言葉、忘れるなよ。約束だぞ」
念押しをした主さまは、辺りをきょろりと見回して人の目がないことを確認してから息吹をぎゅうっと抱きしめた。
…こうする度に、夫婦になった喜びを感じる。
新妻としてできる限りのことを全力でしてくれる息吹とゆったりとした生活を送れるのはいつの日になることやら――
「主さま、行ってらっしゃい」
その言葉に背中を押されて、足取りも軽く空を駆け上がった。
主さまは台所で茶碗を洗っている息吹の隣で手伝うでもなく腕組みをして立っていた。
一緒に居てくれるのは嬉しいが、少々邪魔なために作業がはかどらず、息吹はとうとう主さまの肩を押して隅へと追いやった。
「もおっ、なんなの?手伝ってくれるならまだしも、私に何か用?」
「…俺と入るんじゃないのか」
「え?私と主さまが何に入るの?」
「……わからないならいい。湯から上がったらすぐに戻って来い。母に何を吹き込まれても真に受けるなよ」
手拭いで手を拭いた息吹は背の高い主さまを見上げて表情を探った。
だが元々表情のあまり動かない主さまからは何も読み取れず、感じたのは――女の勘だ。
「わかった。私と主さまが出会う前のお話をお義母様がするかもしれない、ってことでしょ」
「……」
「主さまが女たらしで沢山女遊びしてたこと位知ってるんだから、私だって覚悟してたもん。…やっぱりまだ隠してることがあるってこと?」
「隠していることなどない。話す必要のない話が多いというだけだ」
…うまく言いくるめられた気がするが、それ以上詮索をしても面白い話は出てこない気がしたので、息吹は主さまの自室へ行くと、周が用意してくれた白い浴衣と濃紺の丹前を手にして主さまに笑いかけた。
「じゃあ行って来るね。主さまは潭月さんと一緒に温泉に入ったらどう?」
「お前と入るならまだしも冗談じゃない。それにもう百鬼夜行に行く」
つい本音が出て口を閉ざした主さまの深意にようやく気付いた息吹は、ぽっと頬を染めて俯いた。
時々主さまは一緒に風呂に入りたがることがあり、息吹もそれを嬉しく思っていたので、庭に出ようとしていた主さまの着物の袖を引っ張って振り向かせた。
「じゃあ…百鬼夜行から帰って来たら…一緒に入ろうね」
「…その言葉、忘れるなよ。約束だぞ」
念押しをした主さまは、辺りをきょろりと見回して人の目がないことを確認してから息吹をぎゅうっと抱きしめた。
…こうする度に、夫婦になった喜びを感じる。
新妻としてできる限りのことを全力でしてくれる息吹とゆったりとした生活を送れるのはいつの日になることやら――
「主さま、行ってらっしゃい」
その言葉に背中を押されて、足取りも軽く空を駆け上がった。

