主さま不在のまま1週間が過ぎた。

息吹の気落ちは底辺にまで落ちて、つわりの時のように床から起き上がれなくなり…百鬼たちからの怒りの声も上がるようになった。


「主さまは何をやっているんだ。何故戻って来ない?酒呑童子に捕らわれているのか?」


「もしそうならば奴らから高らかな声が上がるだろうし、主さまはすぐ殺されるはずだ。一体どうなっているんだ」


庭で主さまを非難する声が聞こえる。

息吹は床に横たわったままぼんやりしながらそれを聞き、時折腹の中から蹴って来る我が子を労わるために腹を撫でて呼びかける。


「大丈夫…。お父様は…きっと戻って来るから…」


「…息吹…」


始終傍から離れないと決めた晴明は文字通り息吹の傍から離れず、時々ぶつぶつ何かを囁いている息吹の精神が崩壊してしまうのではと案じる。

何と言葉をかけてやればいいかわからず、すり鉢とすり棒を手に薬を作っていると、息吹が顔を上げた。


「父様…」


「どうしたんだい?腹が空いたのならばすぐに用意を…」


「私…みんなが主さまが女を作ったんじゃないかっていう話をしてたのを聞いたの」


「息吹…」


「でも主さまと約束したの。もう秘密は作らないし過去を清算するって。それに…父様……」


息吹が蒲団に潜ってしまったので晴明がその山に耳を寄せると――中からか細くたよりない小さな声が…聞こえた。


「どんどんお腹が大きくなってるの…。主さまが居ないのに…私どうやって独りで産めば…」


「…そなたは独りではない。きっと十六夜にはやんごとなき理由があって戻って来れないのだろう。私たちが必ず捜してあげるから、少し何か食べなさい。そうでないと子が育たないし、母体も影響を受けるからね」


「…赤ちゃん…産んであげなくちゃ…。元気な赤ちゃん…」


妖の妻となったからには危険とはいつも隣りあわせだとわかっていたが、主さまに今危険なことが起きているのかすらわからない。

だが1週間も屋敷を空けたこともないし、悪いことばかり考えてしまうが…この腹の中の子は、主さまとの愛の結晶だ。


「父様…私…ご飯食べます。用意してもらってもいい?」


「ああいいとも、すぐ用意させよう。息吹、起きておいで。父様が連れて行ってあげよう」


晴明が蒲団を捲ると、息吹は両手で顔を覆って――泣いていた。

心が痛むと同時に、主さまに対して殺意に似た感情が芽生えるのを抑えられない晴明は、なんとか笑顔を作って愛娘を抱き上げる。


その時主さまは――あの神社で苦悩していた。