主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

その夜の百鬼夜行は、主さま不在のまま行われた。

当然代行は銀で、かつて銀は百鬼夜行の主の座を巡って主さまと対立したこともあったが…こんな形で先頭を行くのは望んでいない。

今はその座に興味もなければ、もし代行が続くのであれば若葉と過ごす時間も減ってしまう。

銀には銀なりの事情と理由があったが――葛の葉にどこか面立ちが似ている息吹をこのまま寝込ませるわけにもいかないのだ。


「目を凝らしてよく捜せ。十六夜はこの付近で消えたんだ。必ずこの辺りに居るはずなんだ」


「主さまが居なくなるなんて考えもしてなかったが…このまま戻らなければどうする?俺たちは?息吹はどうなるんだ?」


「余計なことを考えるな。息吹のことは晴明に任せる。俺たちが一刻も早く十六夜を見つけて屋敷に連れ帰ればいいだけのこと。そうだろう?」


おお、と小さく声が上がるが皆が不安がっている。

百鬼の結束は強いが、頭の主さまを失えば少なくとも動揺はするし、この先のことも考えてしまうのは仕方ない。

だがどんなに捜しても捜しても――主さまが見つからない。


「あいつ…どこに入るんだ?手ぶらで帰れと言うのか?息吹にどんな面下げて会いに行けと…」


明け方を迎えてしまい、一旦捜索を打ち切った銀の耳と尻尾の毛は逆立ち、怒りが露わになる。

正面に回り込んで表情を窺う必要もないほど全身から怒りが立ち上っている銀は恐ろしく、百鬼たちがすごすごと後に続いて幽玄町に戻ると、息吹は晴明特製の薬湯を飲まされて昏々と眠っていた。


…たった1日主さまが戻って来ないだけでこの憔悴…

また傍らに座っている晴明の背中からも怒りが見えて、百鬼たちを解散させた銀は主さまに怒られようが構うまいと勝手に夫婦共同の部屋に上り込んで晴明の隣に座る。


「どうだ息吹は」


「どうもこうも…私が訪れてから食事を摂っていない。十六夜は何をしている?どこへ行ったのだ」


「…わからん。だが十六夜の不在の原因が酒呑童子一派であれば、一気にここへ攻め込んでくるかもしれないぞ。そうなれば俺たちやお前が軸になって守らなければ」


「……気落ちは体力の低下にも繋がる。私は息吹の世話に専念したい」


「わかった。十六夜の捜索は俺たちに引き続き任せろ」


主さまは戻って来ない。

翌日も、翌々日も、さらにその先も――