横になってみたものの…目はぎんぎんに冴えて眠れない。
何度も寝返りを打って、外で少しでも物音がすれば障子を開けて主さまが帰ってきたか確認してしまう。
だが…夜も開けて昼も過ぎたのに――主さまは戻って来ない。
これはきっと何かあったのだ、と直感した。
途端にまた不安に襲われて布団を被ってうずくまっていると…腹の中からぽこんと蹴られて何度も何度も腹を擦る。
「大丈夫…大丈夫だよ、お父様はもうすぐ戻って来るからね」
うわ言のように繰り返して繰り返して――
主さまが戻って来たら声をかけてくれるといった雪男の声はかからず、夕暮れになった。
その頃になれば百鬼が庭に集結して行方不明になった主さまを案じて大騒ぎになり、その中からひとつの鍵となる言葉を聞き出す。
「やはり酒呑童子か…」
「主さまがあんな小僧っ子に負けるはずがないぞ。だが…いや…万が一そんなことあるのか?」
「わからん。酒呑童子は対峙する度に強くなっている。手傷でも負わされてどこかに身を隠しているのやも……」
「主さまが怪我!?」
居ても立ってもいられなくなった息吹が障子を開けて庭に飛び出すと、一気にその場はしんと静まり返ってしまった。
百鬼全員が息を呑んで息吹を見つめる中、主さまの代わりに百鬼を率いていた銀は、青白く血の通っていないような顔をしている息吹の前に立って肩を抱くと、笑みを浮かべて首を振る。
「憶測でしかないから耳を貸すな。息吹…よく聞いてくれ。何かあったのは恐らく確かだが、十六夜は必ず戻って来る。お前を置いてどこかへ行くはずがない」
「でも…帰ってきてないし!酒呑童子って誰?主さまの敵なの?主さまはその人を追いかけて…っ」
「息吹、興奮すると腹の子に悪い。落ち着いてそこに座れ」
途端、がくがくと脚が震えて貧血に見舞われた息吹が崩れ落ちそうになったのを抱き留めた銀は、悲鳴を上げて駆け寄って来た山姫にこそりと声をかけた。
「晴明を呼んで薬を調合してもらえ。それに息吹は眠る必要がある。あと適切な食事を」
「主さま…主さま……」
いつも傍に居てくれる人が、消えた…
銀に抱えられて部屋に運び込まれた息吹は、指先ひとつ動かすことができずに頬に涙を伝わせる。
何か恐ろしいことが起きてしまった――
私とこの子を、残して――
何度も寝返りを打って、外で少しでも物音がすれば障子を開けて主さまが帰ってきたか確認してしまう。
だが…夜も開けて昼も過ぎたのに――主さまは戻って来ない。
これはきっと何かあったのだ、と直感した。
途端にまた不安に襲われて布団を被ってうずくまっていると…腹の中からぽこんと蹴られて何度も何度も腹を擦る。
「大丈夫…大丈夫だよ、お父様はもうすぐ戻って来るからね」
うわ言のように繰り返して繰り返して――
主さまが戻って来たら声をかけてくれるといった雪男の声はかからず、夕暮れになった。
その頃になれば百鬼が庭に集結して行方不明になった主さまを案じて大騒ぎになり、その中からひとつの鍵となる言葉を聞き出す。
「やはり酒呑童子か…」
「主さまがあんな小僧っ子に負けるはずがないぞ。だが…いや…万が一そんなことあるのか?」
「わからん。酒呑童子は対峙する度に強くなっている。手傷でも負わされてどこかに身を隠しているのやも……」
「主さまが怪我!?」
居ても立ってもいられなくなった息吹が障子を開けて庭に飛び出すと、一気にその場はしんと静まり返ってしまった。
百鬼全員が息を呑んで息吹を見つめる中、主さまの代わりに百鬼を率いていた銀は、青白く血の通っていないような顔をしている息吹の前に立って肩を抱くと、笑みを浮かべて首を振る。
「憶測でしかないから耳を貸すな。息吹…よく聞いてくれ。何かあったのは恐らく確かだが、十六夜は必ず戻って来る。お前を置いてどこかへ行くはずがない」
「でも…帰ってきてないし!酒呑童子って誰?主さまの敵なの?主さまはその人を追いかけて…っ」
「息吹、興奮すると腹の子に悪い。落ち着いてそこに座れ」
途端、がくがくと脚が震えて貧血に見舞われた息吹が崩れ落ちそうになったのを抱き留めた銀は、悲鳴を上げて駆け寄って来た山姫にこそりと声をかけた。
「晴明を呼んで薬を調合してもらえ。それに息吹は眠る必要がある。あと適切な食事を」
「主さま…主さま……」
いつも傍に居てくれる人が、消えた…
銀に抱えられて部屋に運び込まれた息吹は、指先ひとつ動かすことができずに頬に涙を伝わせる。
何か恐ろしいことが起きてしまった――
私とこの子を、残して――

