「まずいな…十六夜を見失ったぞ。あいつ気配を消して何をしているんだ?」
上空では神速の如き速さで先を行ってしまった主さまを見失ってしまった銀たちが、主さまの気配を捜していた。
普段ならばどこに居てもわかるはずなのだが――何故か気配を消してしまったので、もしや酒呑童子の背後を急襲するために…と考えた銀は、主さまに代わって百鬼たちに号令をかける。
「よし、このまま酒呑童子一派を捜して殺す。十六夜は先に幽玄町に戻ったのかもしれないから、俺たちは通常通りやろう」
主さまに続く実力の銀に歯向かう者はなく、銀は少しの不安を持ちながら耳をぴんと立てて主さまの声を探るために心がけた。
――そして息吹は、いつもなら戻って来る時間帯に主さまが戻って来ないので、床からむくりと起き上がって目を擦った。
妊娠してからは早めに戻って来てくれるのだが…何故か妙な胸騒ぎがして、火鉢に火を入れると袢纏を着て障子を開けて空を見上げる。
ちらほらと雪が舞う真っ黒な空に飲み込まれそうな感覚に陥って音を立てて障子を閉めると、誰もいないと思っていた外から声がかかった。
「息吹?まだ夜だぜ、何してんだよ」
「え…雪ちゃん?」
また障子を開けて大広間の方の縁側を覗き込むと、そこにはごろりと寝転がっていた雪男が居て、息吹が身震いをして部屋からもうひとつ袢纏を持ち出すと雪男に駆け寄って身体にかけた。
「雪ちゃん風邪引いちゃう」
「俺雪男だぜ、風邪なんか引かないし。これくらいがちょうど気持ちいいんだ。主さま戻って来ないな。気になってるんだろ」
「うん……」
言い当てられて口ごもってしまった息吹をじっと見上げていた雪男は、こんな時間に起きてきた息吹に驚いた山姫がすぐ熱いお茶を出してくれてお礼を言って縁側に座る。
「なんか胸騒ぎがして…。この子もお腹を沢山蹴るしちょっと眠れなかったからこのまま待ってよっかな」
「ちょっと待ってな、部屋を暖めなくちゃ。順調に育ってるんだねえ、なんか感慨深いよ」
「えへ」
山姫が囲炉裏や火鉢に火を入れてくれて部屋を温めると、雪男は身体が溶けないように縁側に居座ったまま真っ暗な庭に目を遣りながら、からから笑った。
「もうすぐ戻って来るだろ。主さまがお前の傍から離れるもんか」
「うん…そうだね…」
――だが主さまはその日…
幽玄町に帰って来なかった。
上空では神速の如き速さで先を行ってしまった主さまを見失ってしまった銀たちが、主さまの気配を捜していた。
普段ならばどこに居てもわかるはずなのだが――何故か気配を消してしまったので、もしや酒呑童子の背後を急襲するために…と考えた銀は、主さまに代わって百鬼たちに号令をかける。
「よし、このまま酒呑童子一派を捜して殺す。十六夜は先に幽玄町に戻ったのかもしれないから、俺たちは通常通りやろう」
主さまに続く実力の銀に歯向かう者はなく、銀は少しの不安を持ちながら耳をぴんと立てて主さまの声を探るために心がけた。
――そして息吹は、いつもなら戻って来る時間帯に主さまが戻って来ないので、床からむくりと起き上がって目を擦った。
妊娠してからは早めに戻って来てくれるのだが…何故か妙な胸騒ぎがして、火鉢に火を入れると袢纏を着て障子を開けて空を見上げる。
ちらほらと雪が舞う真っ黒な空に飲み込まれそうな感覚に陥って音を立てて障子を閉めると、誰もいないと思っていた外から声がかかった。
「息吹?まだ夜だぜ、何してんだよ」
「え…雪ちゃん?」
また障子を開けて大広間の方の縁側を覗き込むと、そこにはごろりと寝転がっていた雪男が居て、息吹が身震いをして部屋からもうひとつ袢纏を持ち出すと雪男に駆け寄って身体にかけた。
「雪ちゃん風邪引いちゃう」
「俺雪男だぜ、風邪なんか引かないし。これくらいがちょうど気持ちいいんだ。主さま戻って来ないな。気になってるんだろ」
「うん……」
言い当てられて口ごもってしまった息吹をじっと見上げていた雪男は、こんな時間に起きてきた息吹に驚いた山姫がすぐ熱いお茶を出してくれてお礼を言って縁側に座る。
「なんか胸騒ぎがして…。この子もお腹を沢山蹴るしちょっと眠れなかったからこのまま待ってよっかな」
「ちょっと待ってな、部屋を暖めなくちゃ。順調に育ってるんだねえ、なんか感慨深いよ」
「えへ」
山姫が囲炉裏や火鉢に火を入れてくれて部屋を温めると、雪男は身体が溶けないように縁側に居座ったまま真っ暗な庭に目を遣りながら、からから笑った。
「もうすぐ戻って来るだろ。主さまがお前の傍から離れるもんか」
「うん…そうだね…」
――だが主さまはその日…
幽玄町に帰って来なかった。

