「ふん、他愛のない……」
酒呑童子の右腕、敗走。
しかし茨木童子だけは真の酒呑童子の右腕だったので、後の末路は…見えている。
この戦いは、勝利に終わるだろう。
跡を追いかけても良かったが…それよりも神社の本堂から出てきたあの女――
「女を囲って何をしていた…?」
刀を収めて本堂に向かった主さまは、わざと足元に転がっている砂利を音を立てて踏みしめながら近付いて行く。
扉に手をかけたまま肩を震わせている女は恐怖に打ち震えている。
逆光に目が慣れたものの、まだどんな顔をしているかもよくわからなかったので階の手前で立ちどまって目を凝らしていると――
「額に角…!あなたも妖なのですか…!?」
「……そうだ。お前はなんだ。何故捕らわれていた?」
女が口ごもる。
しばらくは話し始めるのを待っていたが…一向に口を開く気配がなく、だが質問に答えるまでは去るつもりのない主さまは階を上がって女をさらに怯えさせて後ずさりさせた。
「あなたが…もしや……百鬼夜行の…?」
「…何故それを知っている。お前…まさか…酒呑童子の女なのか?」
「違います!」
思わぬ激しい拒絶にまた脚を止めた主さまは、出かける直前息吹が結んでくれた鈴つきの髪紐の音をちりんと響かせながらまた前進して木彫りの像を手に取る。
「俺が百鬼夜行の主ならばなんとする?俺を殺すか?お前が?お前は人だろうが」
「……」
突然、くらりと眩暈を感じた。
額を押さえた主さまの手から木彫りの像が床に落ちて転がる。
喉が渇くような…
大量の血を浴びた時のような……
なにかとても良い香りがして、ゆっくりと振り返る。
「どうしたのですか?…お腹が…空いてらっしゃる…?」
「な…に……?」
「見ればわかります。飢えているのでしょう?…お食べになりますか?……私を」
香っているのは――目の前の女だ。
とても美味そうに見えるし、あのやわらかそうな肌……質感…
無意識に喉を鳴らして身を強張らせている主さまに女――椿姫が笑みを浮かべて近付く。
――この男と酒呑童子がぶつかり合えば、恐らく酒呑童子が敗ける。
解放されるために、目の前の男を懐柔する手段に打って出た。
酒呑童子の右腕、敗走。
しかし茨木童子だけは真の酒呑童子の右腕だったので、後の末路は…見えている。
この戦いは、勝利に終わるだろう。
跡を追いかけても良かったが…それよりも神社の本堂から出てきたあの女――
「女を囲って何をしていた…?」
刀を収めて本堂に向かった主さまは、わざと足元に転がっている砂利を音を立てて踏みしめながら近付いて行く。
扉に手をかけたまま肩を震わせている女は恐怖に打ち震えている。
逆光に目が慣れたものの、まだどんな顔をしているかもよくわからなかったので階の手前で立ちどまって目を凝らしていると――
「額に角…!あなたも妖なのですか…!?」
「……そうだ。お前はなんだ。何故捕らわれていた?」
女が口ごもる。
しばらくは話し始めるのを待っていたが…一向に口を開く気配がなく、だが質問に答えるまでは去るつもりのない主さまは階を上がって女をさらに怯えさせて後ずさりさせた。
「あなたが…もしや……百鬼夜行の…?」
「…何故それを知っている。お前…まさか…酒呑童子の女なのか?」
「違います!」
思わぬ激しい拒絶にまた脚を止めた主さまは、出かける直前息吹が結んでくれた鈴つきの髪紐の音をちりんと響かせながらまた前進して木彫りの像を手に取る。
「俺が百鬼夜行の主ならばなんとする?俺を殺すか?お前が?お前は人だろうが」
「……」
突然、くらりと眩暈を感じた。
額を押さえた主さまの手から木彫りの像が床に落ちて転がる。
喉が渇くような…
大量の血を浴びた時のような……
なにかとても良い香りがして、ゆっくりと振り返る。
「どうしたのですか?…お腹が…空いてらっしゃる…?」
「な…に……?」
「見ればわかります。飢えているのでしょう?…お食べになりますか?……私を」
香っているのは――目の前の女だ。
とても美味そうに見えるし、あのやわらかそうな肌……質感…
無意識に喉を鳴らして身を強張らせている主さまに女――椿姫が笑みを浮かべて近付く。
――この男と酒呑童子がぶつかり合えば、恐らく酒呑童子が敗ける。
解放されるために、目の前の男を懐柔する手段に打って出た。

