主さまが下段から上段へ天叢雲を一閃させると、儚い音を立てて結界が砕け散った。
鬼は妖の中で最も好戦的で血を好む。
しかも主さまは鬼族直系の血筋でもあり、はたから見れば冷静沈着に見えるが戦闘ともなれば人格が変わったかのように大量の妖を屠ってきた。
強い者と出会って戦いに勝てば、さらに強くなれる。
その点で茨木童子は主さまにとって恰好の獲物であり、力を抑えて戦わなくてはいい状況に興奮して辺りに鬼火が飛び交った。
また茨木童子も負けじと鬼火を飛ばして辺りを照らすが、主さまの燃え上がるような青白い鬼火よりはやや色が薄く、力の差を物語る。
そして額の両の左右には、角が――
「酒呑童子の狙いは何だ。まだ俺の百鬼を率いて野心を達成したいと言うのか」
「当然のことだろうが!力が強い者が頂点に立つ。お前と酒呑童子様の力量に差もなければ我々は酒呑童子様はお前より遥かに上回っていると信じてあの方の下に居るのだ!」
「所詮烏合の衆に何ができる?契約も交わしてなければ各地から雑魚を集めているだけだろうが。何故酒呑童子が出てこない?俺とやり合えばいいだろうが」
ぐっと黙り込んだ茨木童子は、主さまの気を本堂の方に向けさせまいと山林の奥へじりじり後退する。
主さまも跡を追うとしたが――ぎぎぎと音を立てて本堂の扉が開いたので、脚を止めて天叢雲を握り直した。
「酒呑童子の気配はここにはない。誰が……」
主さまが注視していると、そこから顔を出したのは…思わぬ人物。
逆光に目を凝らしてそれが女であることを確認した主さまは、舌打ちをしている茨木童子にちらりと視線を走らせた。
「…人を捕らえて何をしていた」
「お前には関係のないことだ。いいか、その女に手を出せば…」
――人に仇なす妖は殲滅する。
軽く地面を蹴った主さまの姿を見失ってしまった茨木童子が狼狽えて辺りを見回すと、正面から風を切り裂く鋭い音が聞こえて後方につんのめった。
そのまま立っていれば恐らくは口の中を通過したであろう刀が通り過ぎていき、鳥肌が立った茨木童子は刀を振り上げて応戦する。
「…あれは何者だ」
耳元で低い声が鼓膜を震わせる。
酒呑童子よりも恐ろしい声色で気配で精神を嬲られた茨木童子は、背中を見せて敗走した。
鬼は妖の中で最も好戦的で血を好む。
しかも主さまは鬼族直系の血筋でもあり、はたから見れば冷静沈着に見えるが戦闘ともなれば人格が変わったかのように大量の妖を屠ってきた。
強い者と出会って戦いに勝てば、さらに強くなれる。
その点で茨木童子は主さまにとって恰好の獲物であり、力を抑えて戦わなくてはいい状況に興奮して辺りに鬼火が飛び交った。
また茨木童子も負けじと鬼火を飛ばして辺りを照らすが、主さまの燃え上がるような青白い鬼火よりはやや色が薄く、力の差を物語る。
そして額の両の左右には、角が――
「酒呑童子の狙いは何だ。まだ俺の百鬼を率いて野心を達成したいと言うのか」
「当然のことだろうが!力が強い者が頂点に立つ。お前と酒呑童子様の力量に差もなければ我々は酒呑童子様はお前より遥かに上回っていると信じてあの方の下に居るのだ!」
「所詮烏合の衆に何ができる?契約も交わしてなければ各地から雑魚を集めているだけだろうが。何故酒呑童子が出てこない?俺とやり合えばいいだろうが」
ぐっと黙り込んだ茨木童子は、主さまの気を本堂の方に向けさせまいと山林の奥へじりじり後退する。
主さまも跡を追うとしたが――ぎぎぎと音を立てて本堂の扉が開いたので、脚を止めて天叢雲を握り直した。
「酒呑童子の気配はここにはない。誰が……」
主さまが注視していると、そこから顔を出したのは…思わぬ人物。
逆光に目を凝らしてそれが女であることを確認した主さまは、舌打ちをしている茨木童子にちらりと視線を走らせた。
「…人を捕らえて何をしていた」
「お前には関係のないことだ。いいか、その女に手を出せば…」
――人に仇なす妖は殲滅する。
軽く地面を蹴った主さまの姿を見失ってしまった茨木童子が狼狽えて辺りを見回すと、正面から風を切り裂く鋭い音が聞こえて後方につんのめった。
そのまま立っていれば恐らくは口の中を通過したであろう刀が通り過ぎていき、鳥肌が立った茨木童子は刀を振り上げて応戦する。
「…あれは何者だ」
耳元で低い声が鼓膜を震わせる。
酒呑童子よりも恐ろしい声色で気配で精神を嬲られた茨木童子は、背中を見せて敗走した。

