椿姫を食った直後は満足するが、翌日になるとすぐに腹が減ってしまう。
今まで飢えを感じたこともなく、人を食うのはただ戯れに意味もなくだったが…これは椿姫の魅力なのか、それとも――
「今夜はやけに疼くな……」
食った後の椿姫は満足に動くことができず、ただ床に横たわっている。
すぐに再生する身体に緋色の打掛をかけてやって本堂から出た酒呑童子は、階に座って疼く右目の傷痕に触れた。
…今まで何度となく百鬼夜行の主に戦いを挑んできたが、今のところは完敗だ。
だが椿姫と出会い、椿姫を食ってからは身体に異常な力が湧いて、今度こそあの眺めの良さそうな地位を奪い取れるはずだという自信も沸いていた。
今まで何度も胸の内で、あの男の名を憎しみを込めて呟き続けた。
ずっとずっと呟き続けて…とうとうその名を――
「十六夜め……今度こそは必ず………!」
無意識に呟いた言葉だった。
自分では胸の内でいつものように吐き捨てた名のはずだった。
だが――
「酒呑童子様!今…奴の名を口に…!?」
「…!しまった!気付かれたか…!?」
真実の名を知る相手の顔を思い浮かべながらその名を口にした時――名を口にすることを許されていない者が呼んだ時、それが瞬時に知られることとなる。
憎しみのあまりに、十六夜…主さまの名を口にしてしまった酒呑童子は、すぐさま空を駆け上がって北へ北へと逃走を図る。
今はまだ対決の時ではない。
椿姫を食って、もっともっと力を溜めてから総攻撃をかけるつもりでいたのに、今の状況は今頃主さまがこちらへ向かっている頃のはず。
今はまだ…時機ではないのだ。
「酒呑童子様!俺はどうすれば…!」
「椿姫を守れ!俺があの男を北へ引きつける!」
一緒に連れて行っては足手まといだ。
今は全力で逃げることしか頭になかった。
今まで飢えを感じたこともなく、人を食うのはただ戯れに意味もなくだったが…これは椿姫の魅力なのか、それとも――
「今夜はやけに疼くな……」
食った後の椿姫は満足に動くことができず、ただ床に横たわっている。
すぐに再生する身体に緋色の打掛をかけてやって本堂から出た酒呑童子は、階に座って疼く右目の傷痕に触れた。
…今まで何度となく百鬼夜行の主に戦いを挑んできたが、今のところは完敗だ。
だが椿姫と出会い、椿姫を食ってからは身体に異常な力が湧いて、今度こそあの眺めの良さそうな地位を奪い取れるはずだという自信も沸いていた。
今まで何度も胸の内で、あの男の名を憎しみを込めて呟き続けた。
ずっとずっと呟き続けて…とうとうその名を――
「十六夜め……今度こそは必ず………!」
無意識に呟いた言葉だった。
自分では胸の内でいつものように吐き捨てた名のはずだった。
だが――
「酒呑童子様!今…奴の名を口に…!?」
「…!しまった!気付かれたか…!?」
真実の名を知る相手の顔を思い浮かべながらその名を口にした時――名を口にすることを許されていない者が呼んだ時、それが瞬時に知られることとなる。
憎しみのあまりに、十六夜…主さまの名を口にしてしまった酒呑童子は、すぐさま空を駆け上がって北へ北へと逃走を図る。
今はまだ対決の時ではない。
椿姫を食って、もっともっと力を溜めてから総攻撃をかけるつもりでいたのに、今の状況は今頃主さまがこちらへ向かっている頃のはず。
今はまだ…時機ではないのだ。
「酒呑童子様!俺はどうすれば…!」
「椿姫を守れ!俺があの男を北へ引きつける!」
一緒に連れて行っては足手まといだ。
今は全力で逃げることしか頭になかった。

