自分の妻となったからには平穏な生活などできるはずもないと思っていたが…
今はそれを強く望み、また欲していた主さまは徐々に焦りを感じ始めていた。
酒呑童子は一向に現れない。
一体何が望みなのかと考えるが、あの小僧は百鬼夜行を奪って妖の頂点となる野心を燃やして常に戦いを挑んできている。
一派の動きはあるのに肝心の酒呑童子が現れない――
主さまが密かに歯噛みしている間、同じような思いにかられていた男が在る。
「お前のせいで酒呑童子様が率先して動こうとしない。どうしてくれるんだ」
「そんな……私のせいじゃありません…!」
「お前の血肉を食らってからあの方は様子がおかしい。もしや…その身に毒でも仕込んでいるのか!?」
「言いがかりはやめて下さい!…っ、茨木童子様、手を離して下さい!」
椿姫を捕らえてから定住してしまった酒呑童子に業を煮やした茨木童子が目を吊り上げて本堂の廊下に座っていた椿姫の手首をものすごい力で掴んだ時――
「その手を離せ」
「ひ…っ!しゅ、酒呑童子様…」
「誰の許しを得て触っているんだ?それは俺のもの。今すぐその手を離さなければ…」
いつの間にか木の幹に手を当てて小指のような小枝に立って見下ろしてきていた酒呑童子の目が据わっているのを見た茨木童子は、すぐに手を離して平伏する。
一瞬にして恐れを抱いて頭を下げたその姿に満足した酒呑童子は、ひらりと飛び降りて目尻に涙を浮かべている椿姫の隣に馴れ馴れしく腰かけた。
「見せろ」
「ふ、触れないで下さいませ」
嫌がる椿姫の抵抗を無視して茨木童子が捻り上げた左の手首を見つめ、指の跡がつくまで真っ赤に腫れているやわらかい肌を擦ってやった酒呑童子は、低く凍り付いた声で茨木童子を促す。
「去ね」
「御意」
すっと姿を消したのを確認した酒呑童子は左目を細めて笑うと、椿姫の左の手首を引き寄せてぺろりと舐めた。
「や、やめてください…!」
「味はしないが美味いと感じる。今日も食いに来たぞ。中へ入れ」
毎日毎日、食われる日々。
だが痛みもなく血も感じない呪われた身体の椿姫は、それでも心を痛めて弱々しく首を振る。
椿姫に対してどうしても自虐心をそそられてしまう酒呑童子は、嫌がる椿姫を抱き上げて本堂の中に入り――今日も目的を果たす。
今はそれを強く望み、また欲していた主さまは徐々に焦りを感じ始めていた。
酒呑童子は一向に現れない。
一体何が望みなのかと考えるが、あの小僧は百鬼夜行を奪って妖の頂点となる野心を燃やして常に戦いを挑んできている。
一派の動きはあるのに肝心の酒呑童子が現れない――
主さまが密かに歯噛みしている間、同じような思いにかられていた男が在る。
「お前のせいで酒呑童子様が率先して動こうとしない。どうしてくれるんだ」
「そんな……私のせいじゃありません…!」
「お前の血肉を食らってからあの方は様子がおかしい。もしや…その身に毒でも仕込んでいるのか!?」
「言いがかりはやめて下さい!…っ、茨木童子様、手を離して下さい!」
椿姫を捕らえてから定住してしまった酒呑童子に業を煮やした茨木童子が目を吊り上げて本堂の廊下に座っていた椿姫の手首をものすごい力で掴んだ時――
「その手を離せ」
「ひ…っ!しゅ、酒呑童子様…」
「誰の許しを得て触っているんだ?それは俺のもの。今すぐその手を離さなければ…」
いつの間にか木の幹に手を当てて小指のような小枝に立って見下ろしてきていた酒呑童子の目が据わっているのを見た茨木童子は、すぐに手を離して平伏する。
一瞬にして恐れを抱いて頭を下げたその姿に満足した酒呑童子は、ひらりと飛び降りて目尻に涙を浮かべている椿姫の隣に馴れ馴れしく腰かけた。
「見せろ」
「ふ、触れないで下さいませ」
嫌がる椿姫の抵抗を無視して茨木童子が捻り上げた左の手首を見つめ、指の跡がつくまで真っ赤に腫れているやわらかい肌を擦ってやった酒呑童子は、低く凍り付いた声で茨木童子を促す。
「去ね」
「御意」
すっと姿を消したのを確認した酒呑童子は左目を細めて笑うと、椿姫の左の手首を引き寄せてぺろりと舐めた。
「や、やめてください…!」
「味はしないが美味いと感じる。今日も食いに来たぞ。中へ入れ」
毎日毎日、食われる日々。
だが痛みもなく血も感じない呪われた身体の椿姫は、それでも心を痛めて弱々しく首を振る。
椿姫に対してどうしても自虐心をそそられてしまう酒呑童子は、嫌がる椿姫を抱き上げて本堂の中に入り――今日も目的を果たす。

