主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

晴明は連日のように主さまの屋敷に現れては庭に立ち、満足そうに空を見上げる。


「ふむ、よく機能している。さすがは私の術だ」


「父様?お茶が入ったから一緒に飲もうよ」


「ああそうだね、ありがとう」


息吹に何も打ち明けていないことを主さまから聞いていた晴明は、膨らんできた息吹の腹に目を遣って頬を緩める。

血は繋がっていないが実の娘と思って育ててきた息吹に子が産まれる――いわば孫だ。

酒呑童子という鬼族から出た妖が常に主さまの一族に敵意を抱いて歯向かってくるのは毎度のことだったが、もし息吹にまで危険が及んだら――

そう思うと居ても立ってもいられずにとても難解で困難な結界を都中に展開した結果、今の所酒呑童子たちが攻めてくる気配もない。


「知っているかい?鬼族の子はある程度育つまで額に角が生えている。成長すれば消える者が多いが、私の孫はどうかな」


「角っ?小さい角が生えてるの?可愛いっ、沢山撫でてあげなきゃ」


「角は弱点でもあり、触れられると嫌がるものだが許した者に触れられると気持ちいいらしい。十六夜もそうだろ?」


「うん、主さまもうっとりするよ。あんまり触らせてくれないけど」


そんな主さまは珍しく縁側でごろ寝をしていて、そっと掛け布団をかけてやった息吹は団子を頬張りながら脚をぷらぷらさせて空を見上げる。

…平穏なように見えているが、それは作り出された世界であるとわかっていた。


何故ならば、ここのところずっと主さまや銀、そして晴明が自分のいないところで難しい話をしていることを知っているからだ。

だがそれは敢えて口に出さない。

自分に聞かれたくない話であるということも知っているから。


「私も幼子の頃は耳と尻尾が消えなくて困ったものだよ。鬼としての血が濃ければ角が生えて生まれてくるだろう」


「わあ、楽しみ!」


隠居を望んでいる主さまの願いを叶えてくれるかもしれない腹の中の子は、最近動くようになった。

ぽこんと蹴られる度に愛情が沸き、晴明の手を取って腹にあてさせた息吹は待っていましたと言わんばかりに腹の中から蹴ってきたので優しい声で呼びかける。


「おじい様だよ。沢山遊んで沢山可愛がってもらおうね」


そんな息吹の願いを叶えてやるために、晴明も動き始める。