主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

「いた…っ」


息吹が身籠ってから半年が経ち、腹の膨らみも着物越しにでもわかるようになってきた。

そうなるとさらに心配性になってしまった主さまは息吹の傍から始終離れず、産着を縫っていた息吹が誤って指先に針を刺した時、指を引き寄せて血の玉が浮かんでいる人差し指を見つめてくどくど。


「危ないじゃないか。それに何枚産着を縫うつもりだ?針なんか危ないからそろそろやめて…」


「そだね、じゃあ次は手足が冷えないように何か違うものを…」


「半妖は滅多に病になどならず丈夫な者が多い。子よりも俺はお前の方が心配だ」


「主さまの心配性」


そう言われたが一向にやめるつもりのない主さまは、顔を近付けて息吹の人差し指にぱくっと食いつく。

今は到底息吹を食い物になど見ることはできないし、美味そうだとからかうことはあるが本心ではない。

だが妖として生まれついたからには血の味はやはり美味くて、すぐに指を解放してやった主さまは正直に感想を述べた。


「美味い。勿体ないから血など流すな」


「齧るくらいならいいけど、食い千切らないでね」


「そんなことは一生しない。それより早く昼寝をしろ。もう昼を過ぎたぞ」


最近よく昼寝をするようになった息吹を寝かしつけた後、主さまは草履を穿いて蔵の方へと歩いて行く。

そこにはのんびり草の上に寝転がって日向ぼっこをしていた銀が居て、主さまと目が合うと大きな欠伸をして起き上がった。


「息吹は寝たか」


「寝た。話を聞く」


「南下していた一団を全滅させてやった。数は300といったところか。こちらに犠牲は出ていないが、あちらは大打撃を受けたはずだ。一部でしかないはずだが、酒呑童子が出てくるかもしれないぞ」


「晴明の結界が貼られているが…入って来れると思うか?」


酒呑童子の件を晴明に話した途端、晴明は数日平安町の屋敷に閉じ籠もって複雑な結界を幽玄町に貼った。

その際幽玄町を出入りする百鬼たちから一滴ずつ血を貰い、それを用いて百鬼以外の妖は平安町及び幽玄町には近づけないようになっているらしく、相変わらず息吹を溺愛しすぎていて気持ち悪いと主さまは思っていたが…


「すさまじい結界だ。何千束になろうとも入って来れないだろう。結界の外で迎え撃つか?」


「…少し待て」


何かが引っかかる。

主さまはそれをずっと突き止めずにいた。