庭に降りた息吹が八咫烏の太い嘴を撫でてやっていた時――背筋がぞわぞわっとする感覚に襲われて身を竦めた。
その空気は晴明と主さまもすぐに感じて息吹に向けられている殺気から庇うように盾になって取り囲む。
「胡蝶か…出て来い」
「それがあなたの妻?可愛らしいだけで貧相な女ね」
緋色の蝶が飛び交う濃紫の着物を着崩して豊満な胸元が少し見えている色っぽい女――胡蝶がゆらりと庭に現れる。
息吹は主さまと晴明の隙間からその女を確認して、彼女が主さまの義理の姉であり、そして今回離縁騒ぎにまでなってしまった原因であることを知ると、ずいっと前に出た。
「こら息吹」
「大丈夫。あなたが主…十六夜さんのお姉さんなんですね。はじめまして、妻の息吹と申します」
にっこり笑って頭を下げているものの、その笑みが怖い。
真実の名を呼ばれたことに喜びを感じるよりも、何やら息吹に凄味が加わって目を見張った主さまは、そっと息吹の手を握った。
「ふうん…私を挑発しているつもり?私は義理の姉なのよ。十六夜とそれ以上の関係だったことは?」
主さまからははっきりと男女の関係ではないと断言された。
もしこれが嘘ならば本気で離縁してやると脅かしたが主さまはまっすぐ見据えて嘘ではないと言ってくれたので、それを信じる。
腕を組んでゆったり構えている胡蝶に再びにっこり笑いかけた息吹は、主さまの腕に絡み付いて見上げた。
「動揺させようと思っているみたいですけど嘘だってわかってるから大丈夫です。ね、十六夜さん」
「ああ。お前は俺を傷つけようとしているが、それは別にいい。だが息吹を巻き込むのはやめろ。息吹は俺の子を身籠っているからな」
「……なんですって…?じゃあ…その子が次の…」
「そうだ。男で力が強ければ後継ぎとなる。胡蝶…そろそろ俺に絡むのはやめてお前はお前の生き甲斐を見つけろ」
力もなければ女でしかも正妻の子ではない――
散々陰口を叩かれて憎悪を膨らませていた胡蝶は、怒りを漲らせて息吹ににじり寄ろうとした。
「おっと、それ以上私の娘に近付くな。それとも私までも敵に回すということでいいのかな?」
「晴明……」
美しかった顔が醜く歪む。
主さまへの憎悪は深く…いや、憎悪というよりも…愛憎に見えた。
その空気は晴明と主さまもすぐに感じて息吹に向けられている殺気から庇うように盾になって取り囲む。
「胡蝶か…出て来い」
「それがあなたの妻?可愛らしいだけで貧相な女ね」
緋色の蝶が飛び交う濃紫の着物を着崩して豊満な胸元が少し見えている色っぽい女――胡蝶がゆらりと庭に現れる。
息吹は主さまと晴明の隙間からその女を確認して、彼女が主さまの義理の姉であり、そして今回離縁騒ぎにまでなってしまった原因であることを知ると、ずいっと前に出た。
「こら息吹」
「大丈夫。あなたが主…十六夜さんのお姉さんなんですね。はじめまして、妻の息吹と申します」
にっこり笑って頭を下げているものの、その笑みが怖い。
真実の名を呼ばれたことに喜びを感じるよりも、何やら息吹に凄味が加わって目を見張った主さまは、そっと息吹の手を握った。
「ふうん…私を挑発しているつもり?私は義理の姉なのよ。十六夜とそれ以上の関係だったことは?」
主さまからははっきりと男女の関係ではないと断言された。
もしこれが嘘ならば本気で離縁してやると脅かしたが主さまはまっすぐ見据えて嘘ではないと言ってくれたので、それを信じる。
腕を組んでゆったり構えている胡蝶に再びにっこり笑いかけた息吹は、主さまの腕に絡み付いて見上げた。
「動揺させようと思っているみたいですけど嘘だってわかってるから大丈夫です。ね、十六夜さん」
「ああ。お前は俺を傷つけようとしているが、それは別にいい。だが息吹を巻き込むのはやめろ。息吹は俺の子を身籠っているからな」
「……なんですって…?じゃあ…その子が次の…」
「そうだ。男で力が強ければ後継ぎとなる。胡蝶…そろそろ俺に絡むのはやめてお前はお前の生き甲斐を見つけろ」
力もなければ女でしかも正妻の子ではない――
散々陰口を叩かれて憎悪を膨らませていた胡蝶は、怒りを漲らせて息吹ににじり寄ろうとした。
「おっと、それ以上私の娘に近付くな。それとも私までも敵に回すということでいいのかな?」
「晴明……」
美しかった顔が醜く歪む。
主さまへの憎悪は深く…いや、憎悪というよりも…愛憎に見えた。

