主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

息吹が実家で産みたいといった時、何より慌てたのは主さまだ。

ここで産むものだと決めつけていたので目を見張った主さまに気付いた息吹は、座布団から降りて膝をついたまま主さまににじり寄る。


「駄目?実家の方が安心するんだけど…」


「……いや、お前がそうしたいならそうしろ。……ちょっとこっちに来い」


今夜ももちろん百鬼夜行。

だが今日ばかりは息吹と離れ難く、息吹を夫婦共同の部屋に引っ張り込もうとした時――銀が尻尾を高速回転させながら息吹の手をひっぱって止めた。


「十六夜よ、めでたい席だぞ。主賓が席を外してどうする」


「……百鬼夜行までは好きにさせろ」


「今日は俺が代行する。これからのお前の使命は息吹が出産するまで悩みを減らしてやることだ。なに、乗っ取ったりはしない。何せ百鬼の契約をしているからな」


「銀さん……お任せしていいの?ありがとう」


「お前にはいつも若葉の世話をしてもらっているし、それに十六夜の顔を見ろ。お前と離れたくないという顔をしている」


言い当てられた主さまは息吹に見られないようにぷいっと顔を背けて息吹を部屋に引っ張り込んだ。

妊娠がわかってから満足に会話も交わしていないので、またせかせかと床の用意をして息吹を座らせると、せかせかと厚着をさせて…笑われた。


「主さまったら用心すぎるよ。またつわりも来てないのに…」


「用心するに越したことはない。…せっかく授かったんだぞ、何かあると大変じゃないか」


「それはそうだけど…今夜は傍に居てくれるの?でも主さま…助平なことはしちゃ駄目だよ、赤ちゃんに悪いと思うから」


「わかっている。…お前は俺を助平扱いしすぎだ」


息吹の両頬をむにっと引っ張って笑った主さまは息吹の横に寝転がって腹に手をあてた。


父と母との間にはなかなか子ができずに焦った時期があったという。

だが自分は…息吹と夫婦になってすぐに子を授かった。


人との間にこうも早く授かることができるのは稀なので、晴明の言うように本当に地主神から何かしらの力を受けたのかと思うと、少しじんときた。


「俺の実家に文を飛ばしたからどちらかがここに来るかもしれない。…晴明は…前以上に入り浸りになるだろうな…」


「大人数で集まるのは好きだから歓迎だよ。主さま…嬉しいね。赤ちゃん…赤ちゃん……」


だが翌日現れたのは――予想を裏切る人物だった。