晴明は元々過保護気味なところがあるが――今日の晴明はいつにも増して過保護に感じる。
息吹が地主神の祠へ行くと言えば手桶を持ってやったり、井戸の水を汲んでやったり――どう考えてもおかしい。
躾が行き届いているので食べ物をよく噛んで食べる息吹は1つの饅頭を食べ終わるのに結構な時間がかかり、ようやく食べ終えたと思ったら息吹の手に違う味の饅頭を押し付ける始末。
さすがに息吹もおかしいと感じていたのだが、父の晴明に構われるのはとても嬉しいので何も言わずに与えられるがままに饅頭を食べていた。
「おい晴明、こっちに来い」
「なんだ、私は忙しい」
「忙しくはないだろうが。息吹に饅頭を食わせるのが忙しい理由か?」
「そうだとも。誰かが息吹ががりがりに痩せるまでに心労をかけさせていたからねえ、せめて心労がかかる前の姿に戻さぬと私の気が晴れぬ」
「………」
暗に責められている気分になった主さまがまたむっつりすると、夕方に差し掛かって百鬼たちが次々と庭に現れた。
今日こそは百鬼夜行に出なければならないので、昨晩主さまとゆっくりできた息吹はすっきりした表情で饅頭を頬張りながら主さまに手を振る。
「行ってらっしゃい主さま。気を付けてね」
「…ああ、行って来る」
結局晴明は朝廷や民からの依頼を放って夕方まで屋敷に入り浸り、主さまは渋々百鬼たちと共に屋敷を離れた。
「今日は父様お仕事はなかったの?」
「ああ、少々考えなければならないことが増えたから頭の整理をしていたのだよ。そろそろ退散するとしよう。息吹、朝晩が涼しくなったから身体を冷やさぬように」
「はい。じゃあまたね父様。道長様たちによろしく伝えておいてくれる?」
「いいとも。相模…おっと、相模様は時間を作って幽玄橋まで会いに行くとおっしゃっていたからその時は私が手はずを整えよう」
晴明が去り、饅頭でお腹いっぱいになった息吹は山姫に出されたお茶を啜りながら隣で寝ている若葉の頬を撫でた。
「今日の父様なんだかおかしかったね。そう思わない?」
「そ、そうかい?あいつはいつもあんなもんだよ。それより風呂を入れたから入っておいで。肩までしっかり浸かるんだよ」
「はあい。母様もなんだか変なの」
ぎくっとなって動きが止まってしまったが、息吹はそれに気付かず風呂場に向かったのでほっとした山姫はやれやれと肩を叩いた。
「言うんじゃなかったかねえ…」
後悔先に立たず。
息吹が地主神の祠へ行くと言えば手桶を持ってやったり、井戸の水を汲んでやったり――どう考えてもおかしい。
躾が行き届いているので食べ物をよく噛んで食べる息吹は1つの饅頭を食べ終わるのに結構な時間がかかり、ようやく食べ終えたと思ったら息吹の手に違う味の饅頭を押し付ける始末。
さすがに息吹もおかしいと感じていたのだが、父の晴明に構われるのはとても嬉しいので何も言わずに与えられるがままに饅頭を食べていた。
「おい晴明、こっちに来い」
「なんだ、私は忙しい」
「忙しくはないだろうが。息吹に饅頭を食わせるのが忙しい理由か?」
「そうだとも。誰かが息吹ががりがりに痩せるまでに心労をかけさせていたからねえ、せめて心労がかかる前の姿に戻さぬと私の気が晴れぬ」
「………」
暗に責められている気分になった主さまがまたむっつりすると、夕方に差し掛かって百鬼たちが次々と庭に現れた。
今日こそは百鬼夜行に出なければならないので、昨晩主さまとゆっくりできた息吹はすっきりした表情で饅頭を頬張りながら主さまに手を振る。
「行ってらっしゃい主さま。気を付けてね」
「…ああ、行って来る」
結局晴明は朝廷や民からの依頼を放って夕方まで屋敷に入り浸り、主さまは渋々百鬼たちと共に屋敷を離れた。
「今日は父様お仕事はなかったの?」
「ああ、少々考えなければならないことが増えたから頭の整理をしていたのだよ。そろそろ退散するとしよう。息吹、朝晩が涼しくなったから身体を冷やさぬように」
「はい。じゃあまたね父様。道長様たちによろしく伝えておいてくれる?」
「いいとも。相模…おっと、相模様は時間を作って幽玄橋まで会いに行くとおっしゃっていたからその時は私が手はずを整えよう」
晴明が去り、饅頭でお腹いっぱいになった息吹は山姫に出されたお茶を啜りながら隣で寝ている若葉の頬を撫でた。
「今日の父様なんだかおかしかったね。そう思わない?」
「そ、そうかい?あいつはいつもあんなもんだよ。それより風呂を入れたから入っておいで。肩までしっかり浸かるんだよ」
「はあい。母様もなんだか変なの」
ぎくっとなって動きが止まってしまったが、息吹はそれに気付かず風呂場に向かったのでほっとした山姫はやれやれと肩を叩いた。
「言うんじゃなかったかねえ…」
後悔先に立たず。

