主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

山姫の告白の内容は晴明を困惑させて動揺させた。

なんといっても息吹はまだ新婚――ほんの数か月しか経っていない。

人同士の婚姻でもこんな短期間で子に恵まれることはあまりないというのに…


「いやはや…さすがは十六夜、と言うべきか」


「でも確かなことじゃないし、せめてあと1ケ月待ってみないと本当にただ月のものが遅れてるだけかもしれないんだ。晴明…主さまをぬか喜びさせたくないからこれはあたしとあんただけの秘密にしておくれ」


「…うむ、そうだな…その方がよいだろう。しかし…息吹に子が…。私の孫……」


ついにやにやしてしまった晴明が珍しく、呆れ顔で脚を崩した山姫は床に散らばっている巻物を丸めながら息をつく。


「まあ本当の娘じゃないけど、あたしとあんたにとっては本当の娘。あの子はそそっかしいから走って転んだりしないようにあたしが見張っておくよ。本当に子が出来たのならここで産ませるのが一番なんだけどねえ」


2人でにやにやした後、晴明はすくっと立ち上がって山姫の腕を引っ張った。

晴明がどこへ行こうとしているのかすぐにわかった山姫は、一緒に庭に降りて草履を履きながら今頃主さまが幸せの絶頂にあるであろう想像をして肩を竦める。


「あんた毎日幽玄町に通ってると主さまから嫌がられるよ」


「嫌がられても構わぬ。私は息吹を嫁にやった時十六夜に嫌な舅になると宣言した男だぞ。ましてや息吹が妊娠したのならばますます通い詰めて傍に居らぬと心配でたまらぬ」


「あんたは全く…少しは子離れしなよ」


「息吹は父離れしているかい?つまり私たちは離れられぬ親子というわけだよ」


普段は聡明で詭弁の立つ晴明でも、かなりの親馬鹿に間違いない。

牛車に乗ったはいいものの途中人気のある饅頭屋へ寄って息吹の好きそうな菓子をしこたま買っている姿に爆笑した山姫は、主さまは晴明以上の親馬鹿になるだろうと思うとつぼにはまってしまって腹が痛くなってしまった。


「あの子は少しやせ過ぎ故、これで太ってもらおう。大丈夫だよ、そなたとの約束は破らぬ。息吹に知られぬよう見守る」


「それができるなら苦労しないんだけどねえ…」


「これも地主神の慈悲なのか?あの子は何か持っている。さすがは私の娘だ」


親馬鹿炸裂。