主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

「主さまと息吹…出て来ねえな。せっかく今夜は百鬼夜行もなくて騒げるってのによ…」


「あんたら馬鹿なのかい?主さまと息吹は朝まで部屋から出て来ないよ。ほらあんたたち解散しな。2人きりにさせてやりな」


はっとなった百鬼たちは何故か照れまくりながら腰を上げつつ今度は口々に部屋で何をしているか賭けを始める。


「そりゃお前子作りだろ。主さまは息吹と居たがってるから子を作って跡を継がせて隠居だろ?そうなると俺たち…どうする?」


現在の百鬼たちは先代の潭月の頃から従っている者が多く、代替わりの際に百鬼を抜けるか再び契約をするか決めることができる。

次代が従うに足らない力量の者ならばもちろん見限ることが許されているが――主さまの場合は満場一致で抜ける者がひとりも出なかった。


「主さまと息吹の子だろ?ものすごく面白いじゃないか!…で、今はその子作り中ってわけか」


「下世話な賭けをするんじゃないよ!ほら、さっさと散りん!」


山姫にどやされて蜘蛛の子を散らしたように百鬼が散り散りになり、残った晴明と雪男と山姫は息をついてそれぞれ頬をかいた。


「邪魔してやりたいけど…今夜はさすがにやめとく。じゃあ俺氷室に戻るから」


真っ青な髪をぐしゃぐしゃかき混ぜながら地下へ降りて行った雪男を見送った晴明は、腕を組んで薄ら笑いを浮かべた。

ぎくっとなった山姫が一歩後ずさると、晴明は一歩前進。

蛇に睨まれた蛙のような状態になり、梁を背中に追い詰められてしまった山姫は射殺せそうな眼差しで晴明を睨みつける。


「な、なんのつもりだい!?」


「息吹は十六夜に奪い返されてしまった。そなたは明日から再び我が屋敷へ通ってくれ。私も十六夜に負けぬ情熱でそなたを…」


「う、うるさいうるさい!うるさい!!早く帰りな!今すぐ帰りな!」


「ふふふ、可愛い奴だ。私も事後処理がある故早々に退散しよう。ではまた明日」


「…な、なんなんだいあいつは…!今夜は私も早めに寝ようかねえ。……こ…子作りねえ…」


顔を赤くしながら山姫も自室へ入って行ってからしばらくすると――庭側に面した障子がすらりと開いた。

百鬼の気配もなく、庭には淡い黄色い光を発しながら飛び交う蛍が。


息吹は主さまの膝に野って背中から抱きしめられながら、もうしばらくは訪れないであろう主さまとの夜の時間を楽しんだ。