…待てど暮らせど、なかなか息吹を返してもらえない。
元々気長な性格ではない主さまは、何度もちらちら息吹を見て目線を合わせようと試みていたが、悉く失敗。
その度にいらっとしてそわそわしていると、笑いを堪えきれなくなった銀が尻尾と耳をぴょこぴょこ動かして息吹の気を引いた。
今度は息吹が銀の真っ白な尻尾をちらちら見る番で、縁側に座っていた息吹がふらっと立ち上がり、部屋の隅で飲み交わしていた主さまの隣に座った。
「ぎ、銀さん…触ってもいい?」
「いやだと言っても触るんだろう?それより息吹…そろそろ十六夜が限界なんだが」
「え?何が?」
思う存分銀のふかふかの尻尾に触りまくっていた息吹が顔を上げると、主さまがぷいっと顔を逸らした。
こういう時素直になれない主さまの性格が災いしていたが、息吹は主さまの手をきゅっと握って驚かせると、その隙にさっと盃を奪って一気飲みした。
「おやおや、度の強い酒だから酔ってしまうよ」
「大丈夫。ねえ主さま、何が限界なの?」
「………疲れた。もう寝る」
「寝るって言ったって…いつもは百鬼夜行してる時間でしょ?どうしたの?」
時に超鈍感になってしまう息吹がじっと主さまを見上げていると、主さまはそんな息吹を見つめ返して意を決して腰を上げた。
「主さま?」
「部屋に行く。お前たちは好きなだけ騒いでいていいが俺たちの邪魔はするな」
それで主さまが二人きりになりたがっていることを知った息吹は、急に緊張してにやにやしている銀と微笑んでいる晴明に目で助けを求めたが、2人は敢えて知らんふり。
「ぬ、主さまっ、もうちょっとみんなで一緒に居ようよ」
「駄目だ。来い」
大きな手で夫婦共同の部屋に引っ張り込まれると、襖越しに聞こえていた百鬼たちの声がぴたりと止んだ。
主さまが術を使い、しんと静まり返った部屋で自分の心臓の音が聞こえてしいまうのではないかと息吹が気を揉むほどの静けさ。
「あ、あの……主さま…」
「……ここに入って来るのは久しぶりだろう?お前が出て行ってからなにひとつ動かしていない。…他の部屋では多少暴れたが」
「暴れたの?主さまの馬鹿、母様や雪ちゃんを困らせないで」
早速お小言を食らって肩を竦めた主さまは、小さな灯篭に炎を燈す。
頼りない灯り――
だが主さまの顔ははっきりと見える。
こちらを見ているその表情はとても美しくて、吸い込まれるように顔を近付けた。
元々気長な性格ではない主さまは、何度もちらちら息吹を見て目線を合わせようと試みていたが、悉く失敗。
その度にいらっとしてそわそわしていると、笑いを堪えきれなくなった銀が尻尾と耳をぴょこぴょこ動かして息吹の気を引いた。
今度は息吹が銀の真っ白な尻尾をちらちら見る番で、縁側に座っていた息吹がふらっと立ち上がり、部屋の隅で飲み交わしていた主さまの隣に座った。
「ぎ、銀さん…触ってもいい?」
「いやだと言っても触るんだろう?それより息吹…そろそろ十六夜が限界なんだが」
「え?何が?」
思う存分銀のふかふかの尻尾に触りまくっていた息吹が顔を上げると、主さまがぷいっと顔を逸らした。
こういう時素直になれない主さまの性格が災いしていたが、息吹は主さまの手をきゅっと握って驚かせると、その隙にさっと盃を奪って一気飲みした。
「おやおや、度の強い酒だから酔ってしまうよ」
「大丈夫。ねえ主さま、何が限界なの?」
「………疲れた。もう寝る」
「寝るって言ったって…いつもは百鬼夜行してる時間でしょ?どうしたの?」
時に超鈍感になってしまう息吹がじっと主さまを見上げていると、主さまはそんな息吹を見つめ返して意を決して腰を上げた。
「主さま?」
「部屋に行く。お前たちは好きなだけ騒いでいていいが俺たちの邪魔はするな」
それで主さまが二人きりになりたがっていることを知った息吹は、急に緊張してにやにやしている銀と微笑んでいる晴明に目で助けを求めたが、2人は敢えて知らんふり。
「ぬ、主さまっ、もうちょっとみんなで一緒に居ようよ」
「駄目だ。来い」
大きな手で夫婦共同の部屋に引っ張り込まれると、襖越しに聞こえていた百鬼たちの声がぴたりと止んだ。
主さまが術を使い、しんと静まり返った部屋で自分の心臓の音が聞こえてしいまうのではないかと息吹が気を揉むほどの静けさ。
「あ、あの……主さま…」
「……ここに入って来るのは久しぶりだろう?お前が出て行ってからなにひとつ動かしていない。…他の部屋では多少暴れたが」
「暴れたの?主さまの馬鹿、母様や雪ちゃんを困らせないで」
早速お小言を食らって肩を竦めた主さまは、小さな灯篭に炎を燈す。
頼りない灯り――
だが主さまの顔ははっきりと見える。
こちらを見ているその表情はとても美しくて、吸い込まれるように顔を近付けた。

