主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

息吹が戻って来た。

百鬼たちはそれをこぞって喜び、今夜百鬼夜行へ行くのはやめて宴を開こうと大騒ぎして主さまをほとほと困らせていた。


「お前たち…」


「俺たちゃてっきり今日主さまと息吹が離縁しちまうんじゃないかと思って冷や冷やしてたんだ。今夜くらいいいだろ?な、主さま!」


仁王立ちして腕を組んでいる主さまは、庭にひしめく百鬼たちをじろりと睨んだ後、仕方なく腕を解いた。

…今夜は息吹の傍に居たい。

ずっと不安なまま百鬼夜行をしていたし、正直言って心ここにあらずの状態でいたので、今夜も間違いなくそうなるはずだ。


「主さま…でも百鬼夜行に行かないと暴れてる妖たちを退治できないでしょ?私我慢します。だから行って来て」


本当に腹が破裂してしまうのではないかというほどに食べさせられて息をするのも苦しかった息吹は、ちゃんと正座をして肩越しに振り返った主さまに笑いかけた。

だが百鬼たちから再び野次が上がり、それまで黙っていた銀が勝手に台所へ行って酒を調達してくると、縁側にどっかり腰を下ろした。


「さあ呑もう、今すぐ呑もう。今夜は休みだ。暴れている奴らはようやく気合いが入った十六夜に退治させればいい」


実質2番手の銀は若葉を膝に乗せててこでも動かない姿勢を示し、息吹は隣に座っていた晴明の直衣の袖を引っ張って上目遣いに見つめた。


「行かなくてもいいの?」


「たまにはいいだろう。だが息吹…胡蝶は再びやって来ると私は予想している。そなたはちゃんとやれるかい?」


「はい。私、主さまをいじめる人なんて許せない。私なりに主さまをちゃんと守ります」


――その会話が聞こえていた主さまは耳まで真っ赤になるのを感じつつ、夕暮れが来てそれを隠すことができてほっとしながら銀の隣に腰を下ろして山姫に声をかけた。


「酒を持って来い。今夜は無礼講だ」


「おぉーー!俺は息吹に酒を注いでもらうぞ!」


「息吹、こっちに来い!俺たちのお姫様が居ねえと酒が美味くねえ!」


せっかく誤解も解けて仲直りしたのに息吹を独占されてしまった主さまは、晴明も加わった3人で酒を飲み交わして百鬼たちに囲まれた息吹を見遣る。


「離縁させることに失敗したとわかれば明日にも胡蝶はやって来るぞ。いくら義理の姉と言えど確と対処してもらわねば困る」


「…わかっている」


同情はするが、容赦は出来ない。

主さまの切れ長の黒瞳に鋭い光が瞬いた。