主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

晴明が話がこじれるような文を書き、そして雪男が離縁の話だと誤解して騒いだ結果、息吹が大泣き。

だがその涙で息吹も離縁を嫌がっていることがわかったし、やはり心から愛しくてもうこれ以上離れて暮らすのは無理だと痛感した。


「胡蝶は…俺の義理の姉だ。あれは俺を困らせるのが趣味で、胡蝶とは男女の関係はない。だが俺は負い目があって…なかなか胡蝶に逆らえずにいたのは事実。…それでお前を悩ませた。……すまない」


「……お姉さん…」


「本妻ではない女との間に生まれて、大した力も持っていなかったために百鬼夜行を継ぐべき器ではないと判断されて日陰の身で育ったんだ。俺に八つ当たりすることで憂さを晴らしている。今回も…そうだった」


誤解だということは晴明から聞いていたので、息吹は素直にこくんと頷いて話を促す。

男女の関係もなく姉弟の関係だが自分が見た光景は自分でなくとも誤解するような光景だったのは確か。

だが…話を聞かずに飛び出した自分が悪い。


「主さま……私もごめんなさい…。主さまの話を聞かずにお屋敷を飛び出して…」


「…仕方ない。お前にはこれまでにも何度も女絡みで悩ませた。…俺は至らない男だったんだ。お前に出会うまでは…屑だった」


「そんな…違うよ主さま。主さまが女遊びしてたことは知ってたけど私と夫婦になる前の話でしょ?私…離縁する気なんて本当はこれっぽっちもなくて…。主さまごめんなさい。また…傍に置いてくれる?」


時々しゃくり上げながらなんとか話す息吹の頭を胸に押しつけて美しく長い黒髪を指に絡めて梳いた。

隣に置きたいと思った女は息吹だけで、これからも息吹しか考えられない。

ただそういった甘い言葉を口に出そうとしてもなかなか出すことができず悶々とすることが多かったが――今はちゃんと伝えなければいけない時。



「息吹…俺の妻として、俺の子を生んで生涯傍に居るのはお前だけ。お前ほど俺に食いたいと思わせる女は居ない。長い生の間…俺はずっとお前と出会うのを待っていたんだ。息吹……戻って来てくれるな?」


「主さま…!うん…うん!いじけて実家に帰ったりしてごめんなさい。ちゃんと話してくれてありがとう。これからも…私を傍に置いて」



ようやく誤解が溶けて、息吹が泣き止むまでずっと抱きしめ続けた。

細い身体は頼りなく、今日からまた沢山食べさせて太らせようと主さまに妙な決意をもたらした。