主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

息吹が台所に逃げ込んでいる時、道長は真面目くさった顔で晴明を問い詰めていた。


「先ほどの離縁したら俺たちの中から…という話…真剣に考えていいのか?」


「考えるも何も、誰を選ぶかは息吹が決めること。それにそなたには紫式部が居るではないか。二股をかけるなど邪道の極みだぞ」


「ぬ…っ。紫式部とはどんな仲でもない!邪推をするな!」


「では晴明殿、私ならばいかがか」


「そなたは白拍子の静殿と恋仲という噂だが。同じことを2度は言わぬ」


つんと顔を逸らして痛いところを突いてくる晴明をまずどうにかしないと息吹にはたどり着けない。

2人共それぞれ気になる女が居たは居たが…息吹の愛らしさには代えられない。


「身辺を整理すれば息吹姫の心を射止める許可を下さるということでしょうか?」


「まずは離縁するかどうかによる。言っておくがいざ…主さまは息吹に心底惚れて執着している。また息吹も然り。とにかく下手に動かぬよう」


まだ色恋をよく理解できない相模が目を白黒させていると、盆に熱燗を用意した息吹が戻って来た。

だが元気がなく、晴明がぽんぽんと膝を叩くところんと横になって膝枕をしてもらって尻尾を触りまくっていた。


「父様…今夜は一緒に寝てもいいですか?」


「ふむ、私は少し調べ物があるから先に寝ていなさい。後で行くからね」


晴明と息吹が本当の親子ではないことは周知の事実なので、道長たちはじっとりと変な汗をかきながらも口出しをすることができずにもやもや。


「お風呂に入って来ます。道長様たちはごゆっくり」


「う、うむ!」


風呂と聞いてざわめいた道長たちにじろりと冷たい視線を遣った晴明にひんやりした道長たちは、とっぷり陽も暮れたので腰を上げて息吹に手を振った。


「あまり落ち込まれませぬよう」


「はい。ありがとうございます」


にこ、と笑った息吹にぽっとなった義経は、頬をかきながら屋敷を後にして息吹に読んでもらえるような恋文を書くために机に向かって筆を取った。