主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②

尻尾と耳が生えている晴明の姿を見た道長たちは顔を見合わせて恐る恐る頭上に指を指した。


「晴明…そ、それは…」


「これか。私は半妖故、元々尻尾と耳は生えているのだよ。普段は術で隠しているが」


「父様っ、お酒を用意しました!隣に座ってもいいですか?」


…息吹の様子がなんだかおかしい。

ゆったり座っている晴明の隣にぴったり座って、しきりに尻尾や耳を触ってはうっとりとしている。

せっかく息吹に会いに来たのに晴明に独り占めされてやきもちを妬いた面々だったが、息吹が嬉しそうにしていたのでそれについては何とか文句を呑み込むことにした。


「今日は1度幽玄町に戻ったとか。離縁の話をしに行ったのか?」


「道長様…私まだ主さまと離縁するかどうかは決められません。もう少し冷静になる時間が必要なんです」


「そうか、そうだな、時間は必要だ。その間に相模様はよく勉学を学んでおられる。俺は相模様が即位される日が楽しみで仕方ない」


相模に酒はまだ早いので、果実を絞ったものを呑ませていたのだが、道長が誉めたのでむせて咳き込んだ。


「いや俺はまだ全然…。道長や義経や頼朝が守ってくれるからなんとかやれてる感じ。俺みたいな餓鬼が帝になるなんて、って反対してる奴らも多くてさ」


「そっか…大変だね。相模、苦しくなったらいつでもここに逃げて来ていいからね」


ほんわかした空気が流れ、息吹目当てにせっせと通ってくる3人は愛らしく、晴明は尻尾を触っている息吹の肩を抱いてにこりと微笑んだ。


「もし離縁ということになればこの中から夫を選ぶといい。きっとそなたを幸せにしてくれるだろう」


「え…」


全員が絶句した後、男たちはかっかと顔を真っ赤にして俯いたり、酒を呷って一気飲みしたりして動揺を隠す。

だが息吹はなんとか作り笑顔を浮かべてみたが引き攣っているのが自身でわかったのか、そそくさと立ち上がる。


「お、お酒が無くなったから用意してきますね」


台所に逃げ込んだ息吹は、頭から離れない主さまをなんとか追い払おうと懸命に心がけていたが――考えるのは主さまのことばかり。


不器用でも無表情でも女たらしでも、それをわかって嫁いだのは自分――


「…主さまの馬鹿」


そう文句を言いながらも湧き上がる愛情。