何かの縁なのか、とりあえず手拭いを懐に入れて山を下りた息吹は、居間に上り込んでのほほんとお茶を飲んでいた晴明を見つけて声をかけた。
「父様」
「おや、戻って来たのかい?上がっておいで、一緒にお茶でも飲もう」
「ううん、私今家出中だからこのお屋敷には上がりません。…主さまは?」
「さあねえ、寝ているんじゃないのかな?起こしてあげようか?」
襖ひとつ隔てた向こう側で寝ている主さま。
会って話をしようという気持ちはなかったので寝ていても問題なかったはずなのに、何故か少しだけがっかりした息吹は、地下の氷室から出て来た雪男の熱すぎる歓迎を受けた。
「息吹!これ!俺書いたから!」
「え?あ……文…」
「ただの文じゃないから。ちゃんとした恋文だから」
どうだと言わんばかりに胸を張ってちゃっかり隣に座って来た雪男のいつもの様子にほっとした息吹は、きんきんに冷えている文を頬にあててにこっと笑いかけた。
「雪ちゃんありがとう。帰ってから読ませてもらうね」
「早く離縁しちまえよ。そしたら俺ちゃんと家を構えて何不自由ない暮らしを…」
熱心に口説こうとした矢先――主さまが寝ている部屋から何か重たいものを投げたような大きな音が聞こえた。
思わず身構えた息吹と雪男は息を潜めてじっと見つめたが、主さまが中から出てくる様子はない。
「…意気地なし」
ぼそっと呟いた息吹が立ち上がると、せっかく話す機会を持てて何から話そうかと考えていた雪男の肩を落とさせた。
「もう帰るのか?」
「うん、今夜も義経さんたちが来てくれるから、色んなお話を聞かせてもらうの。雪ちゃんまた明日ね。お饅頭作って来てあげる」
息吹が帰ろうとすると、必然的に晴明も帰ることになる。
襖を見つめてにやにや笑っていた晴明は息吹の背中に手を回して牛車に乗り込む。
そして走り去ったと同時に襖が勢いよく開き、どう表現するばいいかわからないほど表情が歪んだ主さまが現れて雪男、ひやり。
「な、なんだよ」
「………息吹に恋文だと?」
「離縁寸前なんだし別にいいじゃん」
「………お前…殺すぞ」
本気の殺気を浴びてまたもやすごすごとその場から退散した雪男だったが、息吹が恋文を受け取ってくれたのでそれには満足していた。
「よし、頑張ろっかな」
希望は捨てない。
「父様」
「おや、戻って来たのかい?上がっておいで、一緒にお茶でも飲もう」
「ううん、私今家出中だからこのお屋敷には上がりません。…主さまは?」
「さあねえ、寝ているんじゃないのかな?起こしてあげようか?」
襖ひとつ隔てた向こう側で寝ている主さま。
会って話をしようという気持ちはなかったので寝ていても問題なかったはずなのに、何故か少しだけがっかりした息吹は、地下の氷室から出て来た雪男の熱すぎる歓迎を受けた。
「息吹!これ!俺書いたから!」
「え?あ……文…」
「ただの文じゃないから。ちゃんとした恋文だから」
どうだと言わんばかりに胸を張ってちゃっかり隣に座って来た雪男のいつもの様子にほっとした息吹は、きんきんに冷えている文を頬にあててにこっと笑いかけた。
「雪ちゃんありがとう。帰ってから読ませてもらうね」
「早く離縁しちまえよ。そしたら俺ちゃんと家を構えて何不自由ない暮らしを…」
熱心に口説こうとした矢先――主さまが寝ている部屋から何か重たいものを投げたような大きな音が聞こえた。
思わず身構えた息吹と雪男は息を潜めてじっと見つめたが、主さまが中から出てくる様子はない。
「…意気地なし」
ぼそっと呟いた息吹が立ち上がると、せっかく話す機会を持てて何から話そうかと考えていた雪男の肩を落とさせた。
「もう帰るのか?」
「うん、今夜も義経さんたちが来てくれるから、色んなお話を聞かせてもらうの。雪ちゃんまた明日ね。お饅頭作って来てあげる」
息吹が帰ろうとすると、必然的に晴明も帰ることになる。
襖を見つめてにやにや笑っていた晴明は息吹の背中に手を回して牛車に乗り込む。
そして走り去ったと同時に襖が勢いよく開き、どう表現するばいいかわからないほど表情が歪んだ主さまが現れて雪男、ひやり。
「な、なんだよ」
「………息吹に恋文だと?」
「離縁寸前なんだし別にいいじゃん」
「………お前…殺すぞ」
本気の殺気を浴びてまたもやすごすごとその場から退散した雪男だったが、息吹が恋文を受け取ってくれたのでそれには満足していた。
「よし、頑張ろっかな」
希望は捨てない。

